オマエしか要らないから【東リベ/オメガバース/R18】
第2章 オマエしか許せないから
五月蝿い程の蝉の声、焦げるような暑さと涼し気な風鈴の音色。冠瓦には入道雲が顔を覗かせ熱気を漂わせている。
道場の縁側には丸みを帯びた背筋の老人が1人とその傍らに少年の姿。
少年は右手に氷菓を携え、夏を味わっていた。
「···マンジロー、これはワシのじっちゃんの話だけどな」
「じっちゃんの、じっちゃん?」
「昔は今みたいなα、β、Ωなんざ存在しなかったんじゃ」
「べーた?おめが?」
「···いつの間にこんな優勢だの、劣勢だの小難しい世の中になっちまったんじゃろうな」
「···?」
じぃちゃんの顔が曇った途端雲は太陽を覆い隠し、辺りは大きな影に包まれた。それからじぃちゃんは色々難しい話をしてくれたけれど幼いオレには理解できなかった。
(イミわかんねー)
眉間に皺を寄せ、頬杖をつき足をばたつかせ話を聞く。
残りの一口を食べる頃には氷は溶けてしまい何だか余計に後味が悪かった。
「···キー···ん?マイキーくん?」
目前には、タケミっちの背中。
「ついたっスよ!」
「んあ?」
どうやら眠ってしまっていたらしい。
タケミっちに「マイキーくん突然寝だすんで危うく落ちるとこでしたよ」と文句を言われながらオレはふわあぁと欠伸をし、周りを見渡した。
(あ、そっか)
あれから結局タケミっちと名前の談笑が続きとうとうシビレを切らしたオレは間に割って入り2人を引き離すべくタケミっちには自分の自転車を漕がせオレはタケミっちの後に乗った。
ぱっと思いついたのが近くの土手だっただけで正直行先はどこでも良かった。
「ここになんかあるんスか!?」
キラキラと目を輝かせキョロキョロと辺りを見回すタケミっち。
(そんな事言ったっけ)
完全に無意識だったが名前に不審に思われないように(と言ってもどうせケンチンにはバレバレなんだろうけど)土手に行ったら男のロマンがあると誘い出したようだ。
「あるワケねーだろ」
後ろからついてきた様子のケンチンが名前を連れ隣に自転車を止める。名前もケンチンの後ろからふわりと降りた。
「マイキーくん運ぶの大変だったんスよ···」
がっくりと肩を落としほろりと涙を見せるタケミっちにオレは口を開いた。
「オレ10個上の兄貴がいてさ、死んじまったンだけどね」