オマエしか要らないから【東リベ/オメガバース/R18】
第2章 オマエしか許せないから
辺りが暗くなって殆どのビルに明かりが灯った頃
名前はドラケンの漕ぐ自転車の後に乗っていた。
自宅へ送ってくれる事に感謝しつつ先刻のマイキーくんの話を思い出す。
(お兄さんが亡くなった、)
(辛い···)
(顔を見たことも無い私が辛いのだからマイキーくんは···きっと、もっと···)
ぼんやりとした視界から川に架かっていた橋がどんどんと見えなくなってドラケン君に連れられていく。
よく整備されているのだろうか、油切れを知らない様子の自転車はスイスイと進んだ。
交差点を曲がり終えた時ドラケン君に話しかけられた。
「マイキーに振り回されて疲れたか?」
「ううん、楽しかったよ」
びっくりしたけど、と続けると
「そっか」とドラケン君が笑い、2人で信号を待つ。
それからドラケン君はエマさんというマイキーくんの妹について話してくれた。第一印象ではあんなに近寄り難い雰囲気を醸し出していたのにエマさんの名前を呼ぶドラケン君の声色は一際優しく暖かかった。
「ドラケン君ってもしかしてエマさんの事···」
「あー···、うん。エマが好きだ」
何で分かったんだと不思議そうにした後に
「秘密な」と付け加え照れくさそうに笑うドラケン君。
「そっか···!ドラケン君、がんばって!」
「おう」
「いいなぁ、私も恋がしたいよー」
「おー、変な男に捕まったらオレがノシてやるから安心しろー」
けたけたと笑い合い、勢いに任せ坂道を下る。
風を切って走る姿は午前中の自分とは違って見え今日登校して良かったと心から思えたのだった。
無事送り届けてもらい、ドラケン君にお礼と別れを告げた後
疲れた体を癒すべく名前はとっておきのバスソルトを溶かし湯船に浸かっていた。
ちゃぷんと水音が響く。
この時間が一番すきだ、癒されて浄化されて綺麗になっていく···。
鼻歌交じりに泡を堪能している最中
「あ!」
勢い良く跳ねる水飛沫と共に上半身を乗り出す。
たった今名前は重大な事を思い出した。
「マイキーくんに、お礼言い忘れちゃった···」
第一印象はどうであれマイキーは確かに名前を助けた。
それが例え名前を逃す事だとしても。
「···また、会えるといいな」
マイキーくんに掴まれた右手首に触れ、名前はそっと呟いた。