第9章 【第八訓】昔の武勇伝は三割増で話の話
「私、こんな所で何やってるの」
銀時と神楽がまだ夢の中にいる時間、彼等二人は働いていた。
トントントンとまな板に包丁が当たる拍子のいい音が止まったかと思うと、次に聞こえて来た台詞。
隣で食器を用意していた新八は不思議な顔で○○を見た。
「何言ってるんですか、○○さん」
○○はゆっくりと首を捻り、新八の目を見つめる。
「……君は誰?」
感情のない顔。
口元がスローモーションのようにその言葉を紡ぐ。
新八も同様、スローのように目を見開いた。
目の動きとは対照的に口は大袈裟に動かされる。
「○○さん! まさかまた記憶が……!」
「なんちゃって。騙されやすい子だね、新八君は」
笑いながら手元に視線を戻すと、○○は再び包丁でリズムを奏で始めた。
新八は胸を撫で下ろしつつ、真面目な声色で○○を叱った。
「性質の悪い冗談やめて下さい。寿命が縮まったじゃないですか」
「ごめんごめん」
出会って数ヶ月しか経っていないのに、自分のことのように心配してくれている新八に○○は素直に謝る。