第2章 【第一訓】天然パーマに悪い奴はいない話
最後の一本を出し終えた時、そのことに気がついた。
「あ、今日、ジャンプの発売日だった。買って来るの忘れた」
毎週欠かさずに読んでいる、その雑誌。
「あー……でも、これを機に読むの止めようかなァ。女の私が、しかもこの年で少年漫画って……」
正確な年齢はわからないけど、と付け加えながら、○○は眉間に皺を寄せる。
その手でマヨネーズをぐにぐにと揉みしだく。
「でもなーんか、ジャンプは読まないと落ち着かないんだよなァ……」
「だからなんでジャンプだけ覚えてて、他の記憶は残ってないんでィ」
「それはもう言わない約束!」
目を吊り上げながら、○○は沖田を指さした。
「私だって、もっと別のこと思い出したいよ。なんでジャンプに対する情熱だけ覚えてるんだか」
○○には、ここに来た以前の記憶がない。
自分の名前も、何もかも忘れていた。
唯一所持していた写真に記されていた『○○』の名だけが、今と昔の○○を繋いでいる。
それでもコンビニでジャンプを見つけた時、食いつくように手に取った。
それは、記憶を失う前から読んでいたからなのだろうか。
「思い出して、早く帰りたいよ」
父や母。
他にも、待っている人がいるかもしれない。
「焦る必要はねェ。そのうち思い出す時が来らァ」
「そんなこと言い続けて、どれだけ経ってると思ってんの」
「グダグダ言っても仕方ねェ。時に任せるしかねーこともあるってんでィ」
沖田は立ち上がり、アイマスクを取ると○○の元に歩み寄った。
「それに、俺は○○にはずっとここにいてもらいてェ」
肩に手をかけ、真剣な表情で○○を見つめる。
「総悟?」
「○○がいなかったら、誰が俺等に飯作ってくれるんでィ。○○は真選組の家政婦でィ」
「だ……」
沖田は急いで両耳を塞いだ。
「誰が家政婦だァァァ!!」
途端、○○の大声が屯所内に木霊した。