第57章 【第五十六訓】漫画キャラにとって読者は神様です
○○はどしゃ降りの町を歩く。
雨にけぶり視界不良が甚だしいが、それ以上に視界を遮るものがある。
目がチラチラして酔いそうだ。○○は傘で視界を隠した。
あ、と思ったのも束の間、
「あっ、すいません」
「いえ、こちらこそ」
正面から来た人と、傘と傘がぶつかった。
「あれ、ぱっつァん」
傘を外すと、見慣れた眼鏡が立っていた。
「○○さん」
ぶつかった相手は新八だった。
新八はとぼとぼと足元を見て歩いていたため、直前まで○○に気づかなかった。
「ていうか、何ですか、ぱっつァんって」
過去にそんな呼ばれ方を○○にされたことはあっただろうか。
「え? うーん、なんとなく」
そう言う○○の視線の先には『8』の字が浮かんでいる。
8位→
その数字。
新八の右耳を示し、その数字は浮いている。
「明らかに“8”の文字を見て言いましたよね」
「まァ、違うって言ったら噓になるね」
新八の元気がないことに、○○はちっとも気づいていない。
「パチ君、こんな雨の中どこに行くの?」
「いえ、特に用事があるわけではないんですが……パチ君って……」
嫌がらせのような呼び方に新八の目はどんどんと虚ろになっていく。
「今日は大人しく籠っていた方がいいと思うよ。雨と数字で目が疲れるよ」
「そう、ですね……。○○さんは仕事の帰りですか」
「うん」
今日は朝からアルバイトがあり、来る客、来る客の数字で目が回りそうだった。
「じゃあ、そろそろ行くね。8君」
新八は○○を見送った。
○○の周囲を歩く人は皆、数字を携えている。
どこを見ても数字数字。それは第二回の人気投票の結果だ。
一人だけ、○○の体には数字と矢印が付いていない。
なぜなら、彼女は三次元世界の人間の分身であるから。