第55章 【第五十四訓】会っても互いを知ることは難しい話
「嘘吐き」
きららを追ううちにすっかり日が落ち、月が昇った。
不安そうな表情を浮かべる○○に銀時は言った。
――俺が傍にいりゃ、大丈夫だろ。
「全然傍にいてくれないじゃない」
倒れることはないだろうが、恐怖心は消えない。
一人になるとあの夜のことを――自身の胸が斬り裂かれた記憶が蘇った日のことを思い出してしまう。
銀時は息を吐くと、○○に手を差し出した。
「けーるぞ」
○○はその手を取って立ち上がった。
階段に足を下ろす。
「銀さん?」
○○は振り返った。
銀時はその場から動いていなかった。
「俺だって心配してんだからな」
銀時の言葉に○○は目を丸くする。
新八の口振りでは深刻な様子はなかったが、心配かけまいと○○が無理をしている可能性もある。
急いで階段を駆け上がり、そこに見えた○○はムッとした顔をしていた。
体調に変化が出ているわけではないと、銀時は安堵した。
「ごめん」
「なんで○○が謝んだ」
「心配かけて、ごめん」
○○は胸に手を当てる。
「○○のせいじゃねーだろ」
心的外傷は簡単に治るものではない。
まして、○○には原因となっている理由そのものの記憶がない。
銀時は○○の手に手のひらを重ねた。
「けーるぞ」
○○の手を握り、銀時は階段を下りる。
酒癖が悪かろうが女性にだらしなかろうが、やっぱりこの人のことが好きだ。
銀時と寄り添いながら、○○は心軽く家路をたどる。