第53章 【第五十二訓】マイナスドライバーもあまり見ない話 其ノ三
「……何よ」
○○は目の前のドライバーを睨みつける。
普段から目つきが最悪の男だが、いつも以上に眼光が鋭い。
「言いたい事があるならハッキリ言えば」
○○の声など聞こえていないように、男は煙草に火をつけた。不愉快極まりない。
無視されることもさることながら、尻尾を掴んだと思ったゲーマー星人の正体が彼等だったことが尚更不愉快な気分にさせている。
○○を振り返り見ていた“先輩”と呼ばれていた男が、この男だったことが実に腹立たしい。
「残念だったね。好みのギャルの正体がギャルの欠片もない女で」
○○はくちゃくちゃとカルビを咀嚼する。
場所は焼き肉屋『蹂々苑』。彼等は“オフ会”を開催している。
「あ? 誰がギャル好みのギャル男だ」
土方はようやく口を開いた。
煙を吐き出す唇の形が不愉快そうにねじ曲がっている。
「よく言うよ。人のことチラッチラ見てたくせに」
ゲーム内で発見したゲーマー星人は、本物のゲーマー星人ではなかった。
その正体は土方と沖田。なんともよく知った人物達の気を引くために、とんだ苦労をしたものだ。
彼等もまたドライバーに改造され、ゲーマー星人を見つけ出すためにゲームをプレイしていた。
「それはおめー、おめーが……」
土方がゲーム内での○○を気にする素振りを見せていたのは、以前『スナックすまいる』で会った女に似ていたからだ。
将軍警護のために訪れた『スナックすまいる』で出会った、アゲ嬢の女。
その顔に引っかかるものがあった。どこかで見たような気がした。かつて遭遇した犯罪者という可能性もある。
土方はアゲ嬢に詰め寄ったが、近藤に一目惚れだと茶化されたこともあり、既視感の理由はハッキリしなかった。
「おめーが、何よ」
土方は言葉を詰まらせる。ギャルが好み。そんなわけはない。
だが、あのアゲ嬢に親近感を覚えたことも事実。見覚えがあると感じたが、負の感情ではなかった。
ゲーム内のギャルの正体が○○だったとわかった今でも、あの時のアゲ嬢が○○だったとは土方は露程も思っていない。