第47章 【第四十六訓】真選組動乱篇 其ノ三
「山崎ィィィィィ!!」
「ええええええっ!! ○○さんんんんん!!!!」
○○は山崎に抱きついた。
思いもよらぬ○○の行動に、山崎は顔を赤くする。
自分の生存をこんなにも喜んでくれていることは素直に嬉しい。
だが、この感触は刺激が強い。山崎の顔はみるみる赤みを増す。
「○○さん!! あのっ、ちょっ、むむっ、むっ、むっ、胸が……」
山崎は死装束の薄い絹一枚。対する○○も薄い袷の着物一枚。
ムニッという感覚が山崎の胸板にぎゅうぎゅうと押しつけられている。
男として嬉しくないはずはない。し、しかし……
と思っている山崎を見下ろす黒い影。
「ん?」
土方の帰還に喜んでいた隊士達の表情が激変し、怒りの形相となっている。
「テメェ! なんで生きてやがんだァァァ!!」
「一人だけ美味しい思いしやがってェェェ!!」
「死ね! 死にさらせ!!」
強制的に○○から引っぺがされた山崎は、隊士達に殴る蹴るの暴行を加えられる。
「死ぬ! 今度こそ死ぬ!!」
助けてェェと情けない声を上げ、山崎は○○に手を伸ばした。
○○は祭壇に目を向ける。
「大丈夫だよ。山崎。お葬式の準備なら出来てるから」
祭壇を示し、○○は山崎に向けて親指を示す。
「えっ、○○さん……!」
「もう一回死んだら、もう一回お香典もらえるかな?」
○○の瞳には¥マークが浮かんでいる。
「もらえるわけないじゃないですか! ていうか俺に対する香典なんてあったんですか!?」
祭壇の中央には大きな写真が飾られている。
大きな大きな、犬の遺影。左隅に小さな小さな、山崎の遺影。
今日の葬儀は、松平の愛犬・プー助が主役。
「次は派手にテメェの葬式やってやるよ!!」
「切腹しろ! 切腹!!」
「士道不覚悟と○○に対する凌辱罪だァァァ!!」
「ギャァァァ!!」
自身の遺影の前で、山崎は死を迎える寸前。
相変わらずの騒がしさに呆れながら、土方は腰を下ろして煙を吐き出す。
○○は笑顔を浮かべた。山崎の死を聞いて以来、見られなかった笑顔。
「二人とも。お帰り」
○○も真選組も、以前の様子を取り戻しつつある。