第45章 【第四十四訓】真選組動乱篇 其ノ一
「○○さん。おはようございます」
時刻は正午前。
アルバイトへ向かおうと万事屋を出た○○は、背後からの声に振り返る。
そこには見慣れた隊服姿の男が立っていた。
「何してんの、山崎。こんな所で」
そこにいたのは真選組時代の同僚、山崎だった。
「見廻りです」
「見廻り?」
○○は眉間に皺を寄せる。
今まで、こんな場所は巡回ルートに入っていなかったはずだ。
山崎が一人で見廻りというのも妙な話。
「この所、何かと物騒ですからね。警備範囲を広げているんです」
「物騒って……。山崎より、余程頼りになる人がここに住んでるけど」
○○は頭上を指さす。
もちろん銀時のことだ。
「そりゃ、旦那は強いですけど、それでも一般人ですからね。一般市民は俺達警察が守らないと」
そう言いながら、山崎はヤケにくねくねと腰を振っている。
「さっきから何腰振ってんの。厠でも我慢してんの? 何なら貸すけど」
○○は『スナックお登勢』を親指で示す。
「え? いえ、違います。ちょっと腰の調子が……」
聞き捨てならない言葉に、○○は鋭い双眸を山崎に向けた。
「腰痛? 鍛錬が足りないんじゃないの? 近頃物騒とか言ってるなら、しっかり鍛えなさいよ」
同じ監察方とはいえ、真選組時代の○○の立場は居候。
だが、真選組に身を置いて間もない頃から○○は山崎に対しては常に上から目線だ。
○○に対する山崎の態度が局長や副長達と同じく恭しいものだからそうさせるのか、単に山崎の下っ端感がそうさせるのかはわからない。
「え、いや、そういうわけでは……」
仁王立ちの○○に睨まれ、山崎は言い淀む。
説教を食らうためにここに来たわけではない。