第44章 【第四十三訓】集え、バベルの勇者達!!の話
これでようやく一安心と思われたが、突然の大きな揺れに○○は体勢を崩した。
縁から手を滑らせてしまった○○は中空へと放り出される。
手を伸ばしても、もはや船は手の届く所にはなかった。
これはマズイと、○○は冷静に物事を判断する。
死の間際は周りの風景がスローモーションのように見えると言うが、まさにその感覚だ。
ゆっくりと、ゆっくりと船が離れて行く。
遠ざかる船の甲板から、その顔が覗き込んだ。
「○○!」
「銀さん!」
銀時は船から飛び降り、○○の手を掴んだ。
しかし、このままでは二人揃って落下するだけ。
そう思われたが二人の体は宙吊りのまま船から離れることはなかった。
「銀さん!」
「銀ちゃーん!」
傾斜がなくなり、甲板へと出て来られた新八と神楽が間一髪で銀時の足を掴んだ。
大きな揺れは屋形船の傾きが元に戻るために生じたものだった。
新八と神楽が二人を引き上げ事なきを得る。
「みんな、大丈夫?」
九兵衛の所にいた妙が声をかけ、新八と神楽は二人の元へと駆けて行った。
○○は肩で息をしたままその場にへたり込んでいる。
「銀さん、ごめん」
危うく巻き添えにする所だった。
新八と神楽が間に合っていなかったら、今頃二人して河川へと叩きつけられている。
「お前が謝るこたァねーだろ。俺が勝手にやったことだ」
二人して落下することを承知で、銀時は○○に手を伸ばした。
あの高さから水面に叩きつけられれば相当の衝撃だ。
だが、自分が抱えて落ちれば○○への衝撃は少なくて済む。
落下が免れないのなら、それが最善の方法だった。
銀時は○○の手を取り立ち上がらせた。
「お前を護るのは俺の役目だ。他の男に――女にも譲る気はねーからな」
銀時は○○の頭に手を乗せ、グリグリと捏ね繰り回す。
その手が振り払われることはなかった。