第26章 【第二十五訓】一寸の虫にも五分の魂の話 其ノ二
「ヒッヒッフー」
香ばしい匂いを嗅ぎながら、○○はラマーズ法を行う。
日はすっかり落ちている。一晩中ネオンの輝くかぶき町と違い、森を照らすのは月明かりのみ。
煌々とした満月の下だが、今の所、○○の体に異変はない。
「うん、大丈夫」
○○は銀時に笑顔を向けた。
その顔を見ている怪しい二人組の存在に、○○は気づいていない。
「何笑ってやがんだ、○○の奴」
土方と山崎が、草陰に隠れて様子をうかがっていた。
万事屋四人はカレーを煮込む鍋を取り囲んでいる。
「銀さん、さっきから何か怒ってんの?」
○○は首を傾げる。
先程から銀時はムスッとした顔で腕を組んでいる。
「ずっとこの調子ですよ」
カレー鍋をかき混ぜながら新八は言う。
真選組の連中と会ってから、銀時も神楽も不快感を露にしている。
銀時の怒りの理由は真選組と出くわしたからだけではない。
その中に○○の姿があったことが怒りを増幅させている。
「なんでアイツらとカブト狩りなんか来てんだ」
「面白そうだったから」
「カブト狩りの何が面白いってんだ。こんな一銭にもならねーことするなら、バイト行ってろ」
「いや、銀さん、お金のために来たんだよね? 一銭にもなるよね?」
元々は神楽が最強のカブトムシを得るために二人を巻き込んでカブト狩りに行こうとしたが、カブトムシが高額で売れることを知った途端に渋っていた銀時が率先して森に向かったと新八に聞いている。
「それに今日はバイトないし」
○○に目も向けず、銀時はブツブツと文句を垂れる。
もう隊士でもないくせにアイツらと行動するな。
バイトが休みなら万事屋に来い。
大体、いつまで屯所に住んでやがる。
新八の耳には、自分より他の男を選んだ彼女に対する嫉妬の声にしか聞こえない。