第25章 【第二十四訓】一寸の虫にも五分の魂の話 其ノ一
午前六時。
既に幾人かの隊士は朝の鍛錬を始めている。
局長は夢の中、副長は部屋で刀の手入れ、一番隊隊長は冷蔵庫のマヨネーズに水を入れて薄めている。
そんな長閑な真選組屯所を激震する悲鳴。
「きゃあああ!!」
女の悲鳴。
それは土方の部屋のすぐ近くから。
「○○!」
真っ先に○○の部屋へとたどり着いた。
戸を叩くも、反応はない。
自室から山崎、台所から沖田、その他悲鳴を聞きつけた隊士が何事かと部屋の前に集まる。
「クソ! 開かねェ!」
土方は戸を開けようとするが、容易には開けない。
なんで○○の部屋に鍵なんかつけたんだと、自らが原因となっているその事態に怒りを向ける。
仕方がないと、土方は扉を蹴破った。
「○○!」
土方の視線の先、○○は上半身を起こした格好で布団の中にいた。
ゆっくりと扉の方へと向けられた視線は鋭い。
「女の部屋に……勝手に入って来るなァァァ!」
投げつけられた黒茶色の生き物は、土方の額を直撃して床に落ちた。
それは、○○に悲鳴を上げさせた原因。
額に刺激を感じ、○○は目を覚ました。視界の上部に刺々しい足が見えた。
額に乗っている生き物の足。一瞬、黒光りする例の生き物と錯覚し、悲鳴を上げた。
人間の体格ほど巨大になったその生物に遭遇して以来、どうも苦手としている。
だがすぐに、それではないことに気づき、体を起こしながら掴み上げた。
それはカブトムシだった。なんだ……とホッと一息吐いた所に、土方が飛び込んで来た。