第22章 【第二十一訓】百万編の詩より一吠えのワン🐾の話
○○は万事屋に向かって歩いていた。
かぶき町とはいえ、朝は静かなものだ。
時々、酔っ払いが倒れている姿が見られるが、人通りは少ない。
階段を上がろうと手すりに手をかけた時、悲鳴が耳に届いた。
「ぎゃああああ!!」
それは新八の声。
小走りに駆け上がり、○○は万事屋へと飛び込む。
「新八君! 新八君!?」
急いで履物を脱ぎ、リビングへ向かう。
ガラス戸を開けて目に入ったのは、大きな口を開けている定春の姿だった。
その前脚の元で新八と神楽は定春を見上げる格好で並んでいる。
○○が声をかけるよりも先に、二人の上半身は定春の口へと銜えこまれた。
「えっ、さっ、定春!? 定春だよね?」
巨大とはいえ、定春の口は精々、人一人の頭が入るくらいの大きさだった。
それが二人も、しかも上半身丸ごと銜え込める大きさになっている。
「どうしたの定春コレェ!!」
○○は定春の体をペタペタと撫で回す。
部屋は定春により破壊された痕跡がある。
テーブルは真っ二つ、ソファの脚も折られている。
「定は――るぎゃあ!」
定春が嬉々として尻尾を振っている。その先っぽで腹部を殴打され、○○は弾き飛ばされた。
見た目はモコモコだが、丸太の棒で打たれた様な衝撃。
○○は壊れたソファに体を打ちつけた。
「うっ……つわり……?」
○○は腹を押さえて座り込む。