第20章 【第十九訓】でんでん虫虫エスカルゴの話
「ホォォォォォ。そーかァ。そいつァ、いーこと聞いたな」
背後から聞こえた声に、○○は硬直する。
振り返ると、ニヤニヤと表情を緩ませた銀時が立っていた。
「ぎぎ、銀さん……」
座敷でおばあさんの話を聞いている最中、銀時はどこかへ姿を消してしまっていたが、いつの間にやら戻っていたらしい。
「へー、ほー、そうかィ」
ニヤニヤ、ニマニマ、ニタニタ。
粘っこい言葉が全て当てはまる表情で、銀時は○○を見下ろしている。
○○は頬を引きつらせる。最後の台詞を聞かれていたことは明らか。
「じゃ、行くか」
銀時は○○の腕を掴むと立ち上がらせた。
まともに顔が見られない。
「行くって、どこに!」
「んなもん、決まってんだろ」
かぶき町の繁華街。ピンク色した建物へ。
「○○がその気なら、いつだって Go to Heaven だぜ」
銀時が○○を連れ込もうとしている建物の名は『極楽浄土』。
「その気ってなんだァァ! そんな気はねェェェ!!」
耳をつんざく大声に、銀時は眉をひそめる。
「何勿体ぶってんだ。ガキじゃあるめーし」
銀時が後頭部に手をやってガリガリと掻くのと、「銀さーん!」「銀ちゃーん」と呼ぶ声が聞こえて来たのは同時だった。
「さっさとしねーから、邪魔が入っちまったじゃねーか」
目を向けると、部屋の中から新八と神楽が手招きをしている。
二人は○○の叫び声を聞いて部屋から顔を覗かせ、そこに銀時の姿を見つけた。
「しゃーねェ、また今度にするか」
銀時は踵を返し、屋敷へと歩いた。
助かったと安堵しながら、○○はその背を追う。
「一つ言っとくけどな」
○○は銀時の後頭部を見上げる。
「俺ァ筋はちゃんと通す方だからな。惚れた女としか、そーゆーこたァしねーぞ。そこんとこ覚えとけ」
チラッと向けられた銀時の表情は、真剣な眼差しだった。
○○は顔を赤らめさせる。昇天させられる日も、そう遠くはないかもしれない。