第18章 【第十七訓】どうでもいいことは忘れていい話
眉間に皺を寄せ、○○は大江戸病院の長椅子に腰掛けている。
左に座るお登勢、右に座る神楽も深刻な表情。
目の前の部屋に表示された『手術中』の表示は点灯中。
現在、手術が行われている。
患者は他でもない、銀時だ。
「みんなァァ!!」
報せを受けた新八が息を切らせて駆けつけた。
表情を曇らせて銀時の安否を問う。
「ジャンプ買いに行った時にはねられたらしいネ」
「私が買い物の時に買って来ればよかった。野菜の特売に気を取られて、発売日だってすっかり忘れてて……」
○○は着物の裾で涙を拭う仕草を見せる。
「いい年こいてこんなん読んでるから、こんな目に遭うアル」
スクーターと共に転がっていたジャンプ。
回収されて来たその雑誌を、神楽は掴み上げた。
「じゃあ、私も同じ目に遭うかな? いい年こいてこんなん読んでるから。ていうか、読んでいい?」
○○の目は表紙に釘づけになっている。
初めてコンビニで見つけて以来、毎週欠かさずに読んでいる少年漫画誌。
万事屋に来た今では、○○か銀時のどちらかが買って来たものを回し読みしている。
○○がジャンプを読んでいる姿を見て、彼は目を丸くしていた。
○○が少年漫画誌を読むとは思っていなかったようだ。
今の自分がジャンプを欠かせないのは昔から読んでいたためかと思っていたが、違うらしい。
「コレヲ機会ニ少シハ大人ニナッテホシイモノデスネ」
四人の様子に、新八は安堵する。
こんな能天気な雰囲気ならば、銀時の命に別状はないのだろう。
「マジ、スンマセンでした。携帯でしゃべってたら確認遅れちゃって」
安堵したのは新八だけではない。
銀時をはねた車の運転手も、責められることもない雰囲気に安堵している。
しかし、この面子を相手に一筋縄ではいくわけがない。
「てめーかァァ、コノヤロォォ!!」
「ヘラヘラしてんじゃねェェェ!!」
「出せるだけ出さんかい!!」
神楽、○○、お登勢。三人の足蹴りが襲う。
「うっせェェェェ!」
表の騒動を耳にし、看護婦が手術室の扉を開いた。
怒鳴り声を上げる看護婦の横をすり抜け、チャンスとばかりに五人は手術室へと飛び込んだ。