第6章 丁子桜
「…咲は、おとうとなの。」
「…」
「小さい時に、別々になっちゃって。」
春組のみんなには、…この劇団の人には、言うつもりなんてなかった。
「咲とは6つも年が離れてるから、忘れちゃってるみたいで。
まぁ、無理もないよね。」
なのに、どうしてだろう。
至さんにだって当たり前に言うつもりなんてなかったのに…。
「たった5年とちょっとで覚えててほしいって思うのが間違いで、そんなに少しならもう家族でもなんでもないもん。」
一度口から出してしまえば、堰き止めていた気持ちがどんどん溢れてくる。
「わかってるんだけど…その分何かしてあげたくて、でも何もしてあげられない。
こんなのが姉なんてさ、無責任に名乗れるわけもないよね。
座長で、リーダーで、毎日毎日朝から晩まで倒れるまで稽古して、みんなもそうで。
私なんて口ばっかり、何もわかんないくせにっ、」
「…芽李さ、お前ほんとにそんなこと思ってるの?」
遠慮がちに、だけどちゃんと耳に届く声。
「思ってるよ、思ってるに決まってるじゃん!
ずっと思ってたよ、みんなにだって何かしてあげたいって、思ってるんだよ!
でもさ、…わかんないんだよ。
演劇のこと何にもわかんなくて、わからないからって、いっぱい調べたり、してもやっぱりみんなにやってあげられることなんてないって、もどかしい、
私、みんなより長くこの劇団にいるんだよ、、
なのに、サボってたわけじゃないのに…
ぜんぜんで、みんなどんどん先に行っちゃって。
咲のことも、探してたのにまた見えなくなっちゃう、って…」
ガシッと肩を掴まれる。
強い力で、痛い。
「こっち見て。」
「…むり、」
言葉に出してから気付いた。
こんなことを思ってたんだって、自分のことのくせにわかんなくなってた。
「なんで?」
「無理なのは無理」
だけど気づいたら気づいたで、こんなことを聞かせてしまったことが恥ずかしくて至さんの顔なんてとても見れない。
「頑固」
「至さんには言われたくない」
「バカ」
「バカっていう方がバカだもん。
至さんなんか結んでる前髪から、禿げてしまえばいいんだ。」
「…はぁ。」
「至さんがため息ついたからこの部屋の酸素ゼロだから。
…もう息苦しいから部屋戻る。」