第6章 丁子桜
「何その謎理論、…他には言いたいことないの?」
「いづみちゃんみたいになれたらよかったのに」
不貞腐れた子供みたい。
嫉妬めいて情けない。
「まさかの監督さん」
でも、今更恥ずかしいも何もない。
さっき全部言っちゃったから。
「咲みたいに直向きで、真澄君みたいに一途で、綴君みたいに気遣い上手で、シトロン君みたいにみんなを明るくできたら良かったのに。」
「俺は?」
「至さんは、部屋掃除できないしゲームばっかだし、体力ないしやめるって言うからやだ。」
あまのじゃくな自分、こんなの知らない。
「コノヤロウ」
「至さんにならなくてもいいから、至さんにはここにずっといてほしい」
「…抱きしめていい?」
真剣に聞いてくれてると思ったのに…
ばっと顔を上げると、至さんの綺麗なピンクの目が思ったより近くにあって。
「は?」
「減るもんじゃないし、いーでしょ。話聞いたんだから、それの報酬ってことで。」
「至さんに聞いてって言ってない」
この状況に頭がパンクしそうになる。
「バカ、俺の部屋で話してるんだから聞いてって言ってるようなもんだろ。」
「バカバカいわないでよ、ほんとにバカになる。」
「バカだからバカって言ってんの。いいから黙って…」
ー…ぎゅ
「いいって言ってない」
「なら、解けば?」
たしかに、すぐに解けそう。
香水と柔軟剤の香り。
それから多分、至さんの匂い。
「変な匂い」
「誰が加齢臭だって?」
「そんなこと言ってない」
「そういえばお風呂まだだったかも」
「…」
「冗談。」
ぽふっと至さんの肩に頭をぐりぐりとすり寄せる。
「くすぐったいからやめて」
「むり」