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3月9日  【A3】

第6章 丁子桜


 「何その謎理論、…他には言いたいことないの?」
 「いづみちゃんみたいになれたらよかったのに」

 不貞腐れた子供みたい。
 嫉妬めいて情けない。

 「まさかの監督さん」

 でも、今更恥ずかしいも何もない。
 さっき全部言っちゃったから。

 「咲みたいに直向きで、真澄君みたいに一途で、綴君みたいに気遣い上手で、シトロン君みたいにみんなを明るくできたら良かったのに。」
 「俺は?」
 「至さんは、部屋掃除できないしゲームばっかだし、体力ないしやめるって言うからやだ。」

 あまのじゃくな自分、こんなの知らない。

 「コノヤロウ」
 「至さんにならなくてもいいから、至さんにはここにずっといてほしい」
 「…抱きしめていい?」

 真剣に聞いてくれてると思ったのに…

 ばっと顔を上げると、至さんの綺麗なピンクの目が思ったより近くにあって。

 「は?」
 「減るもんじゃないし、いーでしょ。話聞いたんだから、それの報酬ってことで。」
 「至さんに聞いてって言ってない」

 この状況に頭がパンクしそうになる。

 「バカ、俺の部屋で話してるんだから聞いてって言ってるようなもんだろ。」
 「バカバカいわないでよ、ほんとにバカになる。」
 「バカだからバカって言ってんの。いいから黙って…」

ー…ぎゅ

 「いいって言ってない」
 「なら、解けば?」

 たしかに、すぐに解けそう。

 香水と柔軟剤の香り。
 それから多分、至さんの匂い。

 「変な匂い」
 「誰が加齢臭だって?」
 「そんなこと言ってない」
 「そういえばお風呂まだだったかも」
 「…」
 「冗談。」

 ぽふっと至さんの肩に頭をぐりぐりとすり寄せる。

 「くすぐったいからやめて」
 「むり」
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