第6章 丁子桜
「…それは、困る。」
「うん。俺も困るよ」
至さんは私の頭に手を添えるようにして、ぐいっと親指の腹で眉間をひと撫でする。
「眉間に皺寄せるのやめな。」
ふっと、笑った後。
今度はその手を頭の頂上に持っていき、
ぐしゃぐしゃと私の髪をなでると今度は満足そうに言った。
「せっかく可愛いんだから、可愛い顔してなよ」
「…どうしたんです、そんなリップサービス。」
「強いて言うなら、ファンサとか?」
少しキメ顔でドヤる至さんに思わず笑ってしまう。
「ぷっ、あははっ…」
「なーんか、腑に落ちないけど…
まぁ、笑ったならいーか。」
笑い続ける私をもう一度なでると、フッと至さんも安心したように微笑んで、チラッと時計に視線をおとす。
「さてと、芽李の言う通り遅刻したらシャレにならないしそろそろ行くよ。」
「あ、いってらっしゃいっ」
「ん、行ってきます」
その声がものすごく優しくて、そして気付く。
さっきのモヤモヤがいつの間にか消えていることに。
ー…ジーっ
その場で至さんを見送るとなぜか視線を感じ、そちらを向くとソファー越しに6つの目と合う。
「オー、イタルもはしに置けないネ〜」
「隅だろ。…監督も、いつまでも見てたら約束遅刻しますよ」
「そういう、ツヅルが一番見てたネ」
そんな3人の元に近寄るとそれに気付いたいづみちゃんがグーサインを出す。
「大丈夫だよ!うちのカンパニー、トラブらないなら員内恋愛OKだから!」
「オー、それならツヅルワタシとどーヨ」
「どーもなにも俺対象は女の子なんで。お断りします」
「残念ネ。ならカントク」
「2番手はちょっと。」
わざとむすっとして3人の前に何も言わずに立ってると、テーブルへと向き直しゆっくりと座り直す。
「は、早くしないとわ、ワタシも遅れちゃうナー、」
「そ、そそ、そーですね!」
「二人とも落ち着ついてくださいよ、余計おかしいですよ」
「ツヅルこそ、コップ空ダヨ」
「至さんとは何もないので。」
と、否定をしつつ恥ずかしさゆえに顔が赤いことを隠すように、みんなが食べ終えた皿をさげる。
「それと、心配かけてたらごめんなさい」
「…ふふ、至さんに任せて正解だったみたいだね」
「ですね」