第6章 丁子桜
朝練が終わって最近の様子とは違ってちゃんとみんなと出てきた咲の顔はやっぱり疲れが見て取れる。
…。
トントン
肩を叩かれ後ろを向けば、出勤モードの至さん。
「どーしたの」
「え、」
「元気ないんじゃない?朝練のとき、覗いてたよね?」
そう言いながら私の身長に合わせて体を屈ませる。
「…そうでしたっけ?」
まさか、気づく人がいるなんて思わなかった。
だけど、その行為について深く言及されるのも怖くて誤魔化す。
「それより至さん、そろそろ行かないと遅刻しちゃいますよ。」
「‥頑固。」
そんなことない、ただの強がりなだけだ。
「至さんよりマシですよ。」
「言うようになったね。
まぁ、…でも。あんな熱い視線向けられてたら、そのうち咲也穴開いちゃうよ。
理科の実験でやらなかった?
虫眼鏡で日光集めて黒い紙に穴開けるやつ」
「やりましたけど、それとこれとは」
全く関係ない話に思わずツッコもうと顔をあげる。
その時やっと自分が顔を俯かせていたことに気付いた。
「やっと目があった。まぁ隠したいならいいんだけど、咲也の次くらいに酷い顔してるから公演前に倒れないようにね」
「咲はともかく、私は倒れても影響ないと思います。」
今の発言は良くなかったと思いながらも、
「あるよ」
「まぁ、家事は滞るかもしれませんけど。」
実際そうなんだからと、ネガティブに開き直ってる自分もいる。
「………はぁ」
そんな私を見てため息をつく至さんの目が、ジト目で追い詰めてくる。
「なんですか、その目」
「俺たちが今何のためにやってると思ってんだよ。」
そんなの、
「"MANKAIカンパニーを立て直す"ため。」
「それもあるけど、じゃあそれはどうして?」
…。
「それは‥住所不定にならないため?」
まぁ、支配人やある意味左京さんのためでもあるよね。
…と言う言葉は彼の視線に負けて言えなかった。
「まぁ、それについてはそうだけど…
ここまで言って分からないとか流石にバカすぎる。
とにかく、芽李…お前が倒れたら少なくとも俺は気が気じゃ無くて、ロミジュリ終わるまでって残ってるのも意味なくなるからってことだけ覚えておいて。」