第6章 丁子桜
「他人に迷惑をかけなさいとご両親におそわったのか」
そう言われれば、何もいえなくなる。
「私たちはいいのよ、けどここにいれば咲ちゃんだって遊びにくるかもしれないわ。」
「……わかりました。」
…たしかに、この時諦めたのは私だった。
大家さんにせっかく提案してもらえたことだったのに、
もう少し頑張ったら咲と離れずに居られたかもしれないのに。
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「芽李ちゃん…?」
その声にハッと顔をあげる。
「…いづみちゃん。」
「びっくりしたよ、寮に帰ってきたら真っ暗なんだもん。
今日はどこにも行かないって聞いてたから、って、どうかしたの?」
「あ、ううん。何も、…」
「…私は、一旦部屋に戻って少し作業してから稽古場のぞこうかと思ってたんだけど、芽李ちゃんは??」
「とりあえずまだ家事で出来てないのあるから、それ終わらせる。」
「うん、わかった。じゃあ、また後でね。」
パタンと閉まったドアに少し寂しさをおぼえてしまうのは、あんなことを思い出してしまったからだ。
"置いてかれた"じゃない、"見捨てたんだ"私が。
すっかり日も暮れて、真っ暗になった外。
そのままで居たら吸い込まれそうで
…隠すようにカーテンをしめた。
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翌朝…。
昨日は結局夜練の時間まで家事が終わらなくて、最近は上手くこなしていた朝の仕事も効率が悪くなってしまった。
そのため遅れて入った、朝の稽古場。
みんなの集中を切らさないようにしないと。
と、配慮しつつドアを少し開く。
…ミーティング?
「殺陣を演出からはずします。」
隙間から聞こえたいづみちゃんの声。
戸惑う咲と、綴くんの同意する言葉。
どうしよう、入っていくべき?
悩んでるうちに、咲の叫ぶ声が聞こえる。
「嫌だ!絶対に嫌だ!!ロミオ役はオレの役だ!」
…初めて聞いた声だった。
「おい、落ち着けよ、咲也」
私なんかよりよっぽど、咲の兄弟みたいな綴くん。
「でも、ロミオ役を交代するなんて絶対に嫌です」
咲がこんなに執着するなんて、…。
ー…ぱたん。
ドアを閉める。
あの中に入ってくなんて、やっぱり無理だ。