第6章 丁子桜
相談があると言われて食卓につけば、あの日と同じように目だけが笑っていないおばさんが正面に座っている。
その日学校は休校日で、たまたま私しか居なかった。
「突然の話になって申し訳ないわね」
そう切り出した彼女は平気な顔をして言った。
「咲ちゃんは養子に出すことにしたの」
温度のない声で相談と言いながら切り出された話は、もう決定事項だった。
「うちの子達も受験で大変なのよ、それで咲ちゃんも小学生でしょう。とても面倒見切れないってことになってね…」
そうか、と思えなかった。
聞き分けも良くいつも通りただうなづくなんて出来なかった。
笑顔でいようって決めた日からその日まで、貼り付けていた仮面がいとも簡単に崩れる。
「…いつ、ですか、」
「早いうちがいいって話になってね、今日からは向こうの家族と住むことになったわ。」
「そんな、急に?どこで、」
「本州よ、言ってもわからないわ。」
さぁっと血の気が引いていく。
「咲にはなんて?…咲には何て言ったんですか?」
「咲ちゃんには、もちろんちゃんと説明したわよ。
芽李ちゃんもそろそろ中学生になって、咲ちゃんの面倒なんてとても見てられないって。
聞き分けのいい子ね、おねぇちゃんが大変って言ったら、すぐにうなづいてくれたわ。」
「わたし、大変なんて思ったことありません!一度だってありません!」
そう、咲が居たからここまでどうにかやって来れたんだ。
「どうして?今更厄介払いするなら、最初から引き取らなきゃよかったのに!!
…何がダメだったんですか?どうして咲なの、」
「男の子なら引き取ってくれるって話だったのよ。咲ちゃんにとってもこれがきっと最善よ。早めに離れればあなたのことだって忘れて元気にやっていけるわ。子供なんてそういうものよ。」
大人の理屈なんてちっともわからない。
そういうものなんて、どうして簡単に決めつけるの…