第6章 丁子桜
その頃私は小学生で、咲はまだまだ小さかった。
その家で生活をするようになって半年を過ぎた頃から、"他人"として扱われることにもようやく慣れて、本当の意味で家族なのは咲だけなんだと幼いながらに察した。
でも、ちゃんとご飯は出してもらっていたし、お風呂だって順番は一番最後だったけど咲と一緒に入れてもらえていた。
お洋服だってそこに住む歳上の子たちのお下がりをもらえていたから、最低限生活は出来ていた。
参観日も他の学校行事も来てくれたことはなかったけど、それでもよかった。
咲といれば寂しくなかったし、両親といた頃に比べればだいぶ質素だったけど幼さを理由に気付かないふりをすれば大丈夫だった。
「今日は帰りが遅くなるから、咲ちゃんと二人でいい子にしているのよ。」
えらくおしゃれな格好をして、その家族は私達に言う。
「はいっ」
わたしも物分かりがいい風を装ってにっこりと笑う。
両親が居なくなって何かと親戚の集まりに連れて行かれた時、子どもらしくないと、何人かの大人達に言われたこともあったけど、笑っていれば大人達の機嫌を損ねないで済むと気づいた時からいつでも笑顔でいるようになった。
自分達を守るための術が他にはなかった。
…そして、1ヶ月に何度か、そう言う日があった。
初めの頃にいわれた、"たまには家族水入らずで過ごしたいのよ"と言う言葉に傷つきもしないで、分かりましたと答えた。
そう言う日は決まって私と咲は用意されたインスタント食品を温めて食べる。
どんなご飯でも、私たちだって”家族水入らず"だった。
それが変わったのは、咲が小学生に上がる年だった。