第1章 寒桜
「もうそいつとも連絡がとれないんだ。
疎遠になってしまって。
本当に申し訳ない」
名前も覚えてないその大人に、酷い嫌悪感を覚える。
眩暈がする。
思ってもいないくせに薄っぺらい、謝罪。
「けどさ、芽李ちゃんも、咲ちゃんも小さかったんだ。
仕方ないだろ。
俺たちだって生活があるんだよ、それぞれの。
悪かったとは思ってるけど、仕方ないだろ。」
言い聞かせるように言ったおじさん。
私の大切な弟を。
私の生きる希望を…!
そんな弁明で許せるわけないじゃないか。
引き離したあげく、たらい回しにして。
「仕方ないって、っ、」
そんな言葉で。
周りの大人も私とおじさんのやりとりを聞きながら、私を宥めるように、視線を向ける。
「亡くなってしまったご両親に変わって、みんな君たちの成長をみてきたんだ。わかってやってよ。そんな怒らないで、ね?」
援護射撃のようにして、違う大人がまた私に言う。
「今までだって、1人でやってきただろ?」
「彼だってきっと幸せに生きているさ。そろそろ忘れて生きてもいいんじゃないか?」
優しい咲のことだから、我慢してるに違いない。
知らない場所で、知らない人と、あんなに小さい咲が、今までどんな気持ちで生きてきたんだろう。
「忘れるなんて無理です、」
"きょうだい"ってだけじゃない。
咲は、両親が残してくれた、私にとって最も大切な忘形見だ。
「そんなこと言ってもね、私たちを見てごらんなさい?大人になっても、兄弟ずっと一緒っていうわけにいかないのよ?」
その言葉にカチンと来る。
「っ、いいじゃないですか!
一緒にいられる時間を奪ったのは皆さんじゃないですか!
っ、今まで居られなかった分、いたいっておもうのは、だめなんですかっ、」
その場所で声を上げたのは、多分その日が最初で最後だったはずだ。
「それは、逆恨みじゃないのか?そもそも、君のご両親が」
"君の両親が死んだのがいけないんだろ"と、言いかけた大人が言いすぎたと顔を歪めると、咳払いをして話題を変える。
「っ、」
「それに、君だって逃げただろう?」