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3月9日  【A3】

第1章 寒桜



 「もうそいつとも連絡がとれないんだ。

 疎遠になってしまって。
 本当に申し訳ない」

 名前も覚えてないその大人に、酷い嫌悪感を覚える。

 眩暈がする。

 思ってもいないくせに薄っぺらい、謝罪。

 「けどさ、芽李ちゃんも、咲ちゃんも小さかったんだ。

 仕方ないだろ。

 俺たちだって生活があるんだよ、それぞれの。

 悪かったとは思ってるけど、仕方ないだろ。」

 言い聞かせるように言ったおじさん。

 私の大切な弟を。

 私の生きる希望を…!

 そんな弁明で許せるわけないじゃないか。

 引き離したあげく、たらい回しにして。

 「仕方ないって、っ、」

 そんな言葉で。

 周りの大人も私とおじさんのやりとりを聞きながら、私を宥めるように、視線を向ける。

 「亡くなってしまったご両親に変わって、みんな君たちの成長をみてきたんだ。わかってやってよ。そんな怒らないで、ね?」

 援護射撃のようにして、違う大人がまた私に言う。

 「今までだって、1人でやってきただろ?」
 「彼だってきっと幸せに生きているさ。そろそろ忘れて生きてもいいんじゃないか?」

 優しい咲のことだから、我慢してるに違いない。

 知らない場所で、知らない人と、あんなに小さい咲が、今までどんな気持ちで生きてきたんだろう。

 「忘れるなんて無理です、」

 "きょうだい"ってだけじゃない。
 咲は、両親が残してくれた、私にとって最も大切な忘形見だ。

 「そんなこと言ってもね、私たちを見てごらんなさい?大人になっても、兄弟ずっと一緒っていうわけにいかないのよ?」

 その言葉にカチンと来る。

 「っ、いいじゃないですか!

 一緒にいられる時間を奪ったのは皆さんじゃないですか!

 っ、今まで居られなかった分、いたいっておもうのは、だめなんですかっ、」

 その場所で声を上げたのは、多分その日が最初で最後だったはずだ。

 「それは、逆恨みじゃないのか?そもそも、君のご両親が」

 "君の両親が死んだのがいけないんだろ"と、言いかけた大人が言いすぎたと顔を歪めると、咳払いをして話題を変える。

 「っ、」
 「それに、君だって逃げただろう?」
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