第1章 寒桜
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夢にしては鮮明に。
過去にしては色褪せて、それでもよく覚えている事がある。
「あの子は今日こそは来るよね?」
何回目かの法事の時に親戚中に聞いてまわった。
それでも本州に引き取られた弟が、親戚の集まりに来ることは一度だってなかった。
その理由はいつも同じ。
"まだ小さいから連れてこられない"
親戚は毎回、壊れたラジオのように同じ事を言った。
"来年には"
今でこそ、それがただの口約束で守る気のない言葉だったんだってことがわかる。
それでも、この時の私は純粋に信じてた。
私だって高校生になったんだ。
って。
6つ下の弟だって中学生だし、今日こそは…。
って。
会えたらもうすぐ、迎えに行くよって言うつもりだった。
バイト先だって、決まってた。
掛け持ちすれば2人でどうにかやってけるって思ってた。
「芽李ちゃん、悪いな。…来ないよ。」
その言葉が、私を奈落の底へと突き落とす。
キーンっと耳鳴りがする。
聞き間違い?
「へ?」
悲しくもないくせに目を伏せて、まるで心配しているかのような声色。
それが演技であることは、すぐにわかった。
「分からないんだ、どこにいるか」
「わからない?どうして、っ、…どうして?!おじさんが連れて行ったんじゃない!!」
嘘をつく時、腕を組んで斜め上を見る仕草をする。
おじさんのそれは見飽きていた。
また違うおじさんが、その人を庇うようにして言うから、思わず睨みつける。
「あの子が来てすぐあと、俺の仕事が失敗して違うやつに頼んだんだよ、その後のことは知らない。申し訳ない。」
…こいつが、私と咲を引き離した張本人。
コイツが咲を引き取らなかったら?
おじさんが、咲を引き渡さなかったら?
グッと
手のひらに力が籠る。
「違うやつって、誰ですかっ!」
聞けども聞けども、欲しい答えを持ってる大人はいなかった。
こんなことなら…。
こんなことなら、両親のなくなったあの時、親戚なんて頼らずに2人で施設にでもいったほうがマシだったかもしれない。