第6章 丁子桜
それから劇場とみんなの写真をそれぞれ何枚か撮って、デザイン案が浮かんだから帰ると言うかずくんを、寮に帰るから途中まで一緒に行こうと誘ったのは私からだ。
「芽李ちゃんは残んなくていーの?」
「ん、だいじょーぶ。できることはあるけど、必要かって言われると実はそうでもないことってあるんだよね、やっぱり。」
「哲学?」
「そんな大層なものじゃないよ、…かずくんさ、」
言いかけた言葉は、かずくんを見てたら引っ込んでしまった。
「なになに?」
だから、誤魔化すように言ったの。
「楽しみにしてるね。」
「もち、任せといて」
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「監督、三好さんから連絡があって、サイトが出来たらしいっす。」
「え、もう!?」
時間がかかると思っていたサイトの開設は想像してたよりだいぶ早くて、それぞれ驚きの声をあげる。
腕は確かと言う綴くんが見せてくれたそれは、幸ちゃんのデザイン画を見た時と同じくらい胸が鳴った。
あまりにも綺麗でかっこよかったから、ずっと見ていたいって思った。
「…よし、私たちもがんばって舞台のクオリティを上げよう!」
いづみちゃんの一言に顔をあげる。
だけどそうだった、稽古はこれからだった。
「おう、なんか盛り上がってんな」
そんな声に思わずビクッと肩を揺らす。
「雄三さん!?」
ちょうどビロードウェイでワークショップがあったから寄ったと言うその人に、勝手に苦手意識を持っている私はできるだけ失礼のないよう挨拶だけ済ませてさっさとその場をさろうと心に決める。
…けど、そう簡単には行かなくて。
ニヤッと笑ったその人は、悪い顔で私をいづみちゃんと雄三さんの座る間にいるよう言葉巧みに促す。
雄三さんの方だけ、なんだか肩がこわばってしまう。
「それじゃあ、みんな、今日は通し稽古から」
いづみちゃんがみんなに声をかける。
通し稽古、楽しみにしてたのにそれどころじゃなくて全然頭に入ってこない。
…と、思っていたのに。
「悪くねぇ」
そんなのは最初だけで隣から低いその声が聞こえるまで、目の前の彼らに夢中になっていたらしい。
気付いたらあっという間に通し稽古が終わっていた。