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3月9日  【A3】

第6章 丁子桜


 「どうせなら、芽李が奥さんならよかったな。」

 一瞬真面目なトーンでそんなことを言う至さん。

 「それにしても、……ぷっ、あははは!」

 「至さん……?」

 「お前ら、バカすぎ。」

 「昨日の夜、みんなで考えたんです。
 どうしたら至さんを引き留められるか……。」

 咲が至さんを見据える。

 「オレたちが演技で至さんを本気にさせて見せます。

 一緒にやりたいって思ってもらえるように。
 だから、一緒に立ってください。

 オレたちのこと、信じてください!


 願いします!」

 ふっと視線を下げたあと、咲と目を合わせた至さん。

 「咲也…‥すっかり座長っぽいな」

 「え?」

 こんなに優しい目、するんだ…

 「わかったよ。とりあえず、ロミジュリまではやってみる。」
 「本当ですか!?」
 「ああ」
 「やったー!」

 至さん…

 「よかった……」

 誰が言ったんだろう。

 「おひたし、おひたしネ。」
 「めでたし、な!」
 「さっさとやるって言えばいい」

 「大人には色々あるんだよ。

 でもまあ、もう1度、誰かを信じてみてもいいのかもな……。」

 「……った、」

 目の前の咲の服を掴む。
 優しく笑った咲。

 「ね、大丈夫だったでしょ。"姉ちゃん?"」
 「っ、」

 ばっと顔を上げる。

 「ふふ、…………っか。」
 「え?」

 「じゃあ、俺そろそろ行かないと」

 「至さん、帰ってきますか、」
 「あんなに熱く止められたらね。じゃあ行ってきます」

 なんだか晴れやかな表情で至さんが玄関を出てそれを見送った私たち。

 「じゃあ、俺たちも準備するかー、」

 ぐーっと背伸びした綴くんに着いて行く。
 その前にちゃんと言わなきゃ。

 「佐久間くん、」

 ぐいっと繋がれた手を引く。
 それに応えるように止まってくれた咲。
 みんなは気づかないまま先に行く。

 「なんですか、酒井さん。」
 「……泣いてごめんね」

 ううん。と首を横に振って、

 「…オレ、酒井さんが泣ける場所になりたいです。」
 「…」
 「もう、1人にはしませんから。」

 決心するように笑いながら言う咲。

 「オレもそばにいますから。」

 その言葉がやけに耳に残った…ー

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