第6章 丁子桜
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「落ち着きました?」
ようやく治まった涙。コクンとうなづく。
「酒井さん、オレそろそろ行かないと。
みんなと約束があるから。」
そう言われてすっと離れる。
「ここにいますか?」
左右に首を振る。
「じゃあ、オレと一緒にいきますか?」
コクンとうなづく。
すると、この部屋に入ってきた時みたいに繋がれた手。
部屋を出ると咲が優しく話を始める。
「今から、みんなでエチュードをするんです。家族のエチュード。」
「…エチュード?」
「お芝居です。多分、もうすぐ始まる」
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「待ってよ、お父さん!」
真澄くんの声がする。
「…は?」
「お母さんと離婚するなんてウソだろ?」
「なんの真似だよ、真澄」
「お母さん、泣いてたぜ?
親父だって、本当は信じてるんだろ?」
綴くんの声も…
「待ってて!オレ、おねぇちゃんと一緒にお母さんを呼んでくるから!」
されるがままの私の手を力強く握った咲。
そしてそのまま言葉をつなげる。
「お母さん、お父さんが行っちゃうよ!ほら、引き留めないと!」
「え、まさか監督が母親役?」
「ぐすんぐすん……ワタシもスロット回すネ。
ケーバで3連単当てるヨ。」
「まさかのシトロンか……!」
「ほら、お母さん、何か言って!」
「考え直せよ、親父。親父の酒癖の悪いとこも、ギャンブル癖も、みんなわかってるしさ」
「ひどいな、俺の設定」
「お母さんも全部わかった上で、結婚したんだよ!?」
「もしかして、ゲーム好きとかけた設定か……」
「お願いだから、出て行くなんて言わないでよ」
「親父、考え直せって」
「ぐすんぐすん……」
「オレ、これからもお父さんと一緒に暮らしたいよ!ねぇ、お姉ちゃんもそうでしょう?」
ぐいっと私の手を引く咲。
エチュードなら確かに、許される気がした。
「みんなと、家族でいたいの、…一緒にいたい!お父さんもいて、みんなもいて、じゃないと悲しくて仕方ないよ」
フワッと至さんの匂いがして、私の頭に大きな掌が乗る。
くしゃっとされた髪に思わず顔を上げると、軽く笑われた。
「……ぷっ、あははは!」