第6章 丁子桜
ー…気付いたら、部屋に戻っていて。
そのうち朝日が登っていた。
あれから、どうやって戻ってきたんだっけ。
…朝ご飯、作らなきゃ。
部屋を出て、ばったりと出会した相手の顔がなぜか歪んでいく。
私のせい?
耳鳴りがひどい、変なの、私。
ー…ぐいっ
強引に引かれた腕を私は他人事のように見て、この状況に頭もちゃんと動かない。
寝不足のせいかな…
ポタポタと、また溢れ出した涙は床にシミを作って。
こんなに泣いたら水溜りでも出来そうだと思った。
着いたのは、101号室。
「オー、咲也もどってきたネ?メイは…」
シトロンくんの声が聞こえる。
「先、談話室行ってるネ。」
ぽんぽんと私の頭を撫でたシトロンくんがそっと部屋を出ていく。
咲は、わたしを部屋の中央まで連れて行ってクッションに座らせる。
差し出されたティッシュ受け取って、目元に当てればもうあっという間に湿ってしまった。
「…っ、ごめんね、変なとこ見せて…」
泣いてるうちに逆に冷静なってきた。
「いえ。大丈夫ですよ、オレはここにいるのでちゃんと泣いてください。」
咲が、私の両手を包む。
「さく…、…も、いなくなったりしないよね、」
すがるような声がでて、こんなとこ咲には見せたくなかったのに、優しい声で諭してくるから…
どっちが上なのかわからなくなる、私の方が姉なのに。
「…っ、いなくなりませんよ。至さんのことも、オレに、オレたちに任せてください。ぜったい、欠けさせません。ティボルトは至さんじゃないと出来ないから。」
あんなに小さかったのに、そればっかり言ってる気がする。
でも私が知らないうちにこんなに大きくて逞しくなってる。
だから、すこしだけ、少しだけこうさせて。
咲の肩を少しだけ借りる。
ー…ぎゅ
遠慮がちに回ってきた咲の手が温かい。
ぽんぽんと、撫でられる背中。
一体、どのくらいそうしてただろう。