• テキストサイズ

3月9日  【A3】

第6章 丁子桜


 ー…気付いたら、部屋に戻っていて。

 そのうち朝日が登っていた。
 あれから、どうやって戻ってきたんだっけ。

 …朝ご飯、作らなきゃ。

 部屋を出て、ばったりと出会した相手の顔がなぜか歪んでいく。
 私のせい?
 耳鳴りがひどい、変なの、私。

 ー…ぐいっ

 強引に引かれた腕を私は他人事のように見て、この状況に頭もちゃんと動かない。
 寝不足のせいかな…

 ポタポタと、また溢れ出した涙は床にシミを作って。

 こんなに泣いたら水溜りでも出来そうだと思った。

 着いたのは、101号室。

 「オー、咲也もどってきたネ?メイは…」

 シトロンくんの声が聞こえる。

 「先、談話室行ってるネ。」

 ぽんぽんと私の頭を撫でたシトロンくんがそっと部屋を出ていく。

 咲は、わたしを部屋の中央まで連れて行ってクッションに座らせる。
 差し出されたティッシュ受け取って、目元に当てればもうあっという間に湿ってしまった。

 「…っ、ごめんね、変なとこ見せて…」

 泣いてるうちに逆に冷静なってきた。

 「いえ。大丈夫ですよ、オレはここにいるのでちゃんと泣いてください。」

 咲が、私の両手を包む。

 「さく…、…も、いなくなったりしないよね、」

 すがるような声がでて、こんなとこ咲には見せたくなかったのに、優しい声で諭してくるから…
 どっちが上なのかわからなくなる、私の方が姉なのに。

 「…っ、いなくなりませんよ。至さんのことも、オレに、オレたちに任せてください。ぜったい、欠けさせません。ティボルトは至さんじゃないと出来ないから。」

 あんなに小さかったのに、そればっかり言ってる気がする。
 でも私が知らないうちにこんなに大きくて逞しくなってる。

 だから、すこしだけ、少しだけこうさせて。

 咲の肩を少しだけ借りる。

ー…ぎゅ

 遠慮がちに回ってきた咲の手が温かい。

 ぽんぽんと、撫でられる背中。
 一体、どのくらいそうしてただろう。
/ 555ページ  
スマホ、携帯も対応しています
当サイトの夢小説は、お手元のスマートフォンや携帯電話でも読むことが可能です。
アドレスはそのまま

http://dream-novel.jp

スマホ、携帯も対応しています!QRコード

©dream-novel.jp