第6章 丁子桜
幸くんの衣装も鉄郎さんの大道具もすっごく楽しみで、
私なんかって思って入れなかったレッスン室のドアも、入って仕舞えばあったかくて、
作ったドリンクを渡したりふかふかのタオルを用意したり、
本を読むのに付き合ったり、
意外とできることも多かったことに気付く。
「芽李ちゃん」
「ん?」
「やっぱり、稽古来てくれてありがとうね。
みんなもなんだろう、イキイキしてるというか…もちろん私もね?
気を遣ってうまく立ち回ってくれてるし、いつもよりスムーズに進んでる気がするから、ほんとに助かる」
「監督…」
「でも、稽古場でたら監督呼びはやめてね。芽李ちゃんには、いづみちゃんって呼んでもらえないと、なんか寂しいっていうか。」
「え、私また監督って呼んでた??」
「うん。まぁ、でも稽古中だから許すけど。っていうのは置いておいて、本当にさ、これからも参加してくれないかな?」
真剣に頼んでくれたいづみちゃんに少し気恥ずかしくなって、
誤魔化すように言う。
「監督命令?」
察してくれたのか、表情を作って答えてくれる。
「ふふっ、うん。監督命令」
「なら仕方ない。その命、謹んでお受けいたします。」
「よろしい」
稽古場の独特の雰囲気に当てられてお互い芝居じみたやりとりをする。
だから、目があって思わず笑ってしまった。
「なんだろうな、華やかさが増すよな」
「綴。そんな目で監督を見るな。」
「仕方ないだろ、」
「まぁ、でも明るくなりますよね!」
そんな会話がされてるとは思わず、いづみちゃんと談笑してると稽古が稽古再開のアラームが鳴ってみんなが役それぞれの表情になる。
スイッチの切り替えが、なんとなくやっぱりカッコよくて…その瞬間が好きだと感じる。
「旅に出ようジュリアス!」
演劇って面白いな…、
こんなふうに関われると思ってなかったのに。
「神の御加護ヲ…」
いづみちゃんの真剣な表情、
みんなのぶつかり合って合わさる感情、
「ロミオ、どうしてお前がロミオ・モンタギューなんだ…!!」
こんなの、
好きにならないほうが…、
胸が熱くならない方が、嘘だ。