第6章 丁子桜
「幸くん」
声をかけるとピタッと止まってくれる。
玄関までは残り数歩だ。
「あのさ。」
「ん?」
「元気100%のことだけど、アンタの関係者?」
ポカーンとすると、咲也って人と続けた幸くん。
「…弟、なんだよね。でも訳あって言ってない。あの子も気づいてない。」
誤魔化そうと思えばできたのに、幸くんにしたくないって思ったのは何故だろう。
「…ふーん。ま、いいけど。」
「だから幸くんもさ、言わないで咲に。」
「オレはオレのために衣装作りにきただけだから、そういうのに巻き込まれるつもりはない。」
すっと胸を張って答えた幸くんに、そりゃあそうだよねと相槌を打とうとした時にパッと振り向いて口を開いた。
「けど、アンタがそのことで何か辛いなら、話はべつ。
オレからはアンタの弟に絶対話さないけど、アンタの話なら聞いてやってもいい。
オレも姉がいるから、その!
まぁ、力になって…やらないこともない。」
そんな優しい言葉に、じんわりと胸があったかくなる。
「何その顔、ニヤニヤしちゃって。ほんとアホヅラ。」
「あ、アホ?」
「アホっていうかやっぱバカ。」
「ばか?!
うぅ、……あ!!それより幸くんに言いたいことがあって」
「なに?」
「この話受けてくれて本当にありがとう。あの日、幸くんが見せてくれた手帳。アレを思って、幸くんだったらどういう衣装をロミオ達に作ってくれるんだろうって想像してた。」
「…」
「でも、私、そういうの疎いから結局全然思いつかなくて、だから嬉しい。綴くんの本と幸くんの作る衣装、どんな化学反応が起きるんだろうって、すごくドキドキしてる。」
俯いてしまった幸くん。
プレッシャーをかけてしまったかと思って、違う言葉を探そうとするとか細く聞こえた声。
「なんでそんなに、」
その続きが言葉になることはなくて、代わりに返ってきた言葉は、頼もしい一言。
「…まぁ、せいぜい期待してなよ。」
不敵に笑った幸くんはどう見たって可愛いって言葉が似合うのに、とってもかっこよくて。
「じゃあ、アンタの期待答えるためにももう行くね。またね。」
「あ!うん!!気をつけて帰ってね!」
すっと靴を履いて、ひらひらと手を振って帰った背中はとても頼もしかった。