第6章 丁子桜
「え?芽李ちゃん知り合い?」
そんないづみちゃんの声にコクッとうなづく。
「オレのこと覚えてたんだ?」
「忘れるわけないよ!幸くんの着てる服、アレにも書いてあった…実物見られるなんて嬉しすぎるっ、
すごい!!」
「いい大人がはしゃぎすぎ。みんな引いてるから、少し離れて。」
つっけんどんな言い方のくせに、どこか嬉しそうな幸くん。
「オー、これがジャパニーズ男の娘ネ!」
「本当、余計なことばっかり知ってんすね。シトロンさん」
「学生さん?」
「今、中学三年。ネットで販売したりしてる経験はあるから、問題はないと思うけど?」
中学3年って言葉に驚いたのは私だけみたいだ。
綴くんなんて冷静に心配してる。
「中学三年じゃ、受験勉強しないといけないんじゃね?」
「うち、エスカレーター式だから余計なお世話」
「あっそ。口悪いな……真澄2号か。」
「公演まで時間がないって聞いたから、ざっと役者を確認しときたくて。主役はだれ?」
「あ、オレ、ロミオ役の佐久間咲也!よろしくね!」
咲の苗字を聞いて目が揺れた幸くんがパッと私に視線を移して、だけどすぐにまた逸らす。
「元気100%、濃縮還元って感じ。4:1くらいで薄めよ。」
「え?」
「はい、次は?」
……みんなの自己紹介を聞いて一通りあだ名をつけるとパタンと手帳を閉じる。
「最後に私が監督兼主宰の立花です」
「ふーん。なるほどね。
じゃあ、ざっとデザイン画のラフ描いてくるからまた打ち合わせってことで。」
スタスタと足をすすめた幸くんがドアに向かうのをみて、もう一度話しておきたいって思った。
「監督、私お見送りしてきますね!」
「あ、うん、お願いします!」
「アイツまた監督って呼んだ」
少し不貞腐れたような真澄くんを宥める綴くんを背中に感じながら、幸くんを追う。