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3月9日  【A3】

第6章 丁子桜


 翌朝、いつもより早く目が覚めて朝食の準備は朝練の始まる時間の前に終わってしまった。

 「どうしよう…」

 昨日の至さんの言葉、本心だったのかな?

 私がいってもいいのかな、稽古。

 「酒井さん!おはようございます!!あれ??もういい匂い」
 「…佐久間くん、おはよう。少し早く起きちゃって、ご飯作り終わっちゃった」

 ヘラっと笑って答えると、パーっと明るくなった表情。

 「じゃあ、稽古見にきませんか??見てほしいんです、酒井さんに!!そしたら、きっとみんなも俺ももっと頑張れます!」
 「でも、私何もできな」
 「そんなことないです!見てもらえるだけでいいんです!…ダメですか?」

 大きな目を不安そうに揺らして、そんなこと言われたら下手に断れない。

 「じゃあ、行ってみようかな…迷惑じゃない?」
 「そんなの、当たり前じゃないですか!!俺たちだけじゃなくてきっと、監督もよろこびます!さぁ、行きましょう」

 ぐいっと強引に引かれた手に、
 咲の頼もしい背中に、ロミオが重なって見える。

 「すごいね、咲は…」

 ピタっと止まった足に勢い余って、咲の背中にぶつかる。

 「っ、ごめん!佐久間くん。」

 慌てて言えば、少しだけ背中を丸めた咲。

 そんなに痛かった??

 「ごめんね?怪我ない??私がぶつかったからだよね??」

 すっかり私より大きくなった身長。春組の中でも小柄な方なのに、2人で並ぶと結構差がある。

 「その呼び方、」
 「うん?」
 「…オレ、知ってる。……………っ、"酒井さん"」
 「はい。んと、なぁに?呼び方?」

 一瞬顔を歪めたくせに、なんでもなかったかのように笑った咲の顔に温度は感じない。

 「稽古、頑張ります。」
 「うん、がんばれ。」

 もう一度私の手を引いて稽古場のドアを開けた咲に、先に来ていた面々がこちらを向く。

 「みんな、おはようございます!
 きょうから、酒井さんも稽古見てくれるそうです!!」

 「芽李ちゃん?!ほんとうに?!」
 「なおさら熱が入るっすね!」
 「べつに監督以外興味はない。」
 「マスミ、いつもに増して嬉しそうネ♪」
 「うるさい、余計なこと言うな。監督が嬉しそうだからってだけ」

 わちゃわちゃしているとまたドアが開いた。


 
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