第6章 丁子桜
「ねぇ。」
「ん?あ、至さん。どうかしました?」
「少し付き合ってよ、寮母さん」
…翌日の夜のことだった。
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「監督さんから、専用メニューもらってさ。俺は基礎練だって。」
「なるほど、…で、ゲーム?」
「俺が基礎練してる間やっておいてよ。団員の生活面サポートするのが仕事っていってたでしょ。」
「…………はい?」
「それにさ、…あー、いや。なんでもない。とりあえず、頼んだよ」
ポイッと渡されたゲームのいじり方もよく分からず、なんとなく触りながら所々指摘を受けながら、そのまま進める。
「ねぇ、」
「はい?」
「俺がさ、辞めるって言ったらどうする?」
悪い予感があたったと思った。
まだ、だめ、いやだ。
手が震えそうになるのを、誤魔化すように言葉を探す。
「…なに、こんなに頑張ってるのにですか?」
「綴がさ、書いてる時俺に言ったことおぼえてる?」
いつのことだろう、
「俺に、楽しいか聞いたよね、」
「あぁ」
「正直、分からないんだよね。だから、あの時少しきつくいっちゃったんだよ、」
…その一言に、息が詰まる。
「じゃあ、どうしてですか。どうして、ゲーム私に預けてまでそうやって基礎練するんですか、辞めたいって思ってるなら、どうして?」
「どうしてだろうね。俺、どうすればいいんだろう。
…まぁ、深く捉えないでよ。辞める選択肢もあるんだって思ったことに気づいた時、寮母さんには言っておきたいなっておもったんだよね。」
"辞める選択肢もある"か、
「わたし、そんなの、なんにも言えないです。」
「引き留めてくれないんだ?」
うっすらと笑う彼に本当に言葉が思い付かない。
「…監督から聞いたよ。昨日俺らのこと探してくれたって、それってどう言うことだったの?」
「それは…」
どう言うことだったんだろう。
ゲームオーバーを知らせる音にセーブもしないで消したのは後ろから伸びてきた至さんの手。
「芽李が引き留めてくれるなら、俺きっともう少し頑張れるんだけど」
悪魔のような囁きにもうなづけない。
「…………じゃあさ、稽古」
「…」
「言葉に出したくなくても、引き止めようかなって少しでも思ってくれるなら、稽古見にきてよ。」