• テキストサイズ

3月9日  【A3】

第6章 丁子桜


 「ねぇ。」
 「ん?あ、至さん。どうかしました?」
 「少し付き合ってよ、寮母さん」

 …翌日の夜のことだった。

ーーーーーーー
ーー

 「監督さんから、専用メニューもらってさ。俺は基礎練だって。」
 「なるほど、…で、ゲーム?」
 「俺が基礎練してる間やっておいてよ。団員の生活面サポートするのが仕事っていってたでしょ。」
 「…………はい?」
 「それにさ、…あー、いや。なんでもない。とりあえず、頼んだよ」

 ポイッと渡されたゲームのいじり方もよく分からず、なんとなく触りながら所々指摘を受けながら、そのまま進める。

 「ねぇ、」
 「はい?」
 「俺がさ、辞めるって言ったらどうする?」

 悪い予感があたったと思った。
 まだ、だめ、いやだ。
 手が震えそうになるのを、誤魔化すように言葉を探す。

 「…なに、こんなに頑張ってるのにですか?」
 「綴がさ、書いてる時俺に言ったことおぼえてる?」

 いつのことだろう、

 「俺に、楽しいか聞いたよね、」
 「あぁ」
 「正直、分からないんだよね。だから、あの時少しきつくいっちゃったんだよ、」

 …その一言に、息が詰まる。

 「じゃあ、どうしてですか。どうして、ゲーム私に預けてまでそうやって基礎練するんですか、辞めたいって思ってるなら、どうして?」
 「どうしてだろうね。俺、どうすればいいんだろう。

 …まぁ、深く捉えないでよ。辞める選択肢もあるんだって思ったことに気づいた時、寮母さんには言っておきたいなっておもったんだよね。」

 "辞める選択肢もある"か、

 「わたし、そんなの、なんにも言えないです。」
 「引き留めてくれないんだ?」

 うっすらと笑う彼に本当に言葉が思い付かない。

 「…監督から聞いたよ。昨日俺らのこと探してくれたって、それってどう言うことだったの?」
 「それは…」

 どう言うことだったんだろう。
 ゲームオーバーを知らせる音にセーブもしないで消したのは後ろから伸びてきた至さんの手。

 「芽李が引き留めてくれるなら、俺きっともう少し頑張れるんだけど」

 悪魔のような囁きにもうなづけない。

 「…………じゃあさ、稽古」
 「…」
 「言葉に出したくなくても、引き止めようかなって少しでも思ってくれるなら、稽古見にきてよ。」



/ 553ページ  
スマホ、携帯も対応しています
当サイトの夢小説は、お手元のスマートフォンや携帯電話でも読むことが可能です。
アドレスはそのまま

http://dream-novel.jp

スマホ、携帯も対応しています!QRコード

©dream-novel.jp