第6章 丁子桜
「ごちそうさまでした……。」
「ごちっす」
「え!?みなさん、もういいんですか?
全然食べてないじゃないですか」
キッチンで作業をしていると、そんな声が聞こえてくる。
「ワタシももういいよ」
「ごちそうさま」
「俺も部屋戻る。」
ゾロゾロと出て行くみんながしょんぼりして出て行く。
「え?え?いいんですか?監督と芽李さんの黄金のカツカレーですよ。全部私が食べちゃいますよー!?
みんな、どうしちゃったんですかね」
「雄三さんの言葉がそうとう効いたみたいで」
「あ!雄三さん来てくれたんですね」
「連絡とってもらって、ありがとうございました」
「いえいえ、でも、みんな大丈夫ですかねー。
傷心のまま退団なんてことになったり……。」
…っ、
ガシャン!!!!
落とし所が悪かったのか、バラバラに壊れたのはお気に入りだったマグカップ。
随分派手に割れたな、と思いながら即座にしゃがんで拾い始めると、勢い余って破片が手に刺さる。
「っ痛」
「芽李ちゃん?!大丈夫?!」
「あ、うん。ヘーキ。手が滑っちゃって。」
「ヘーキじゃないよ!手切れてるじゃん!血、出てるじゃん!
支配人、絆創膏!!」
「は、は、はいー!今すぐ!」
ダラダラと垂れる血にそんなに深く刺さってしまったのかと他人事に思いながら私よりも慌ててる2人に声をかける。
「大袈裟だなぁ、2人とも。大丈夫だって、こんなの」
「大袈裟じゃないよ!痛いでしょっ、もう!気をつけてよ…
傷、深いんじゃない??ガーゼの方がいいかな??あー、もう!」
絆創膏だと血が滲んじゃうからと少し大袈裟に処置された手に思わず笑ってしまう。
「キッチンたつの、この傷治るまで禁止ね!私がカレーを作ります!監督命令だからね!」
「私、舞台立たないんだからそれ通用しないんじゃ?」
「それとこれとは別!約束破ったら絶交!!」
「絶交って、久しぶりに聞いた」
「わたしも久しぶりに言った!!まぁ、でも…本当にみんなも心配するからさ、だめだよ、無理したら。」
「はーい。」
「分かればよろしい。」
落としたコップは支配人によって片付けられて、傷には包帯。
"退団"
その言葉だけがやけに残った。