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3月9日  【A3】

第6章 丁子桜


 静止も聞かず、ずかずかと稽古場に入ったかと思うと目がギラっと光って、どこからともなく厳しい声をかけていて。

 私はまるで結界みたいに思えたこの扉の向こうにははいれずに、パタンっと閉まった音だけがやけに大きく響いた気がして…

 だって、だって私知らないんだ。

 舞台のことを…っ、


 言い訳がましくそんなことを考えて、それなら生活面のサポートを…って、鹿島さんのさっきの"へぇ"って、どんな意味だったんだろう、…。

 だめだ、考えたらまた落ち込んでしまう。

 それで抜け出せなくなって、

 …いつか、、

 「お茶、入れないと。」

 お湯が沸いているのにもかかわらず、少しだけぼーっとしてしまって、ハッとした時には水を入れた時の半分くらいまで蒸発して減ってしまっていた。

 何してんだよ、私。

 熱々に沸いたお湯でお茶を入れてあの部屋の前まで行こうとした時、ちょうど鹿島さんが出てくるところだった。

 「もう帰られるんですか?」

 少しだけホッとした私に気づかれないように、

 「まぁな、茶出してくれようとしてたのか?」
 「えぇ。」
 「悪いな、これから用事があるんだわ。
 そうだ嬢ちゃん、アンタにも言いたいことがある。」

 用事があるなら放っておいてくれればいいのに。

 「なんですか、」
 「この劇団のことを知ってるか?」
 「どう言う意味ですか?」
 「…ここの寮が埋まれば、劇団員は4組×6人。つまり、24人もの劇団員が所属することになる。
 お前は、そんなふうに人数が増えていったとして、ここにいる意味を見出せるのか?」

 「意味がないと、いちゃダメなんですか、」

 ひゅっと喉が鳴る。

 「ダメってことはねぇーが、いずれ居づらくなるんじゃねぇのか?」

 …そんなこと、

 「鹿島さん、…用事、大丈夫なんですか、」

 やっと絞り出した言葉がこれなんて。

 「ははは。悩め。悪いことは言わねぇ、もう少し演劇に興味をもて。…いや、違うな。ここにいる意味を見いだせ。わかったな?」

 ぽんっと無造作になでられた頭に、乗せられた手に悪い人ではないってことはわかるのに、なんでもわかるような顔をするあの人に私はどこか怯えている。

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