第6章 丁子桜
「至さん、入りますよ…………って、どうしたんですか?」
部屋に入るとソファに座って天井を仰ぎ見ている。
「いや、…なんていうか、バレた。
ゲームしてるとこバレたし、結構トゲのある言い方しちゃったし…
はぁ。」
「落ち込んでゲームできないと?」
「今回復待ち。…落ち込んでんのか、俺」
「お腹空いてるんじゃないですか?」
「あー、そう言うことにしとくか。」
ことっとテーブルにお盆を置けば、すっと箸に手が伸びる。
「至さん、至さんは好きな食べ物ありますか?」
「何急に。」
「たまたまそう言う話になって。」
「ピザ」
「じゃあ、千秋楽終わったらみんなでピザパーティするのどうですか?中庭でっ」
「ははは、悪くないね。」
「はいっ」
「…明日から朝練するんだって。」
「へぇ、何時からですか?」
「6時から。」
「じゃあ、朝ごはん腕によりをかけまくりますね!」
「それは頑張らないとな」
…本当は気づいていた。
心なしか曇っていく至さんの表情に。
誤魔化しちゃったけど、誤魔化されてくれればいいと思ったけど、そんなの無責任だった。
「至さん」
「なに?」
「ピザパーティー約束ですから。もちろん、ゲーム持参ありでいいので、」
「えらく必死じゃん」
至さん、至さん、いたるさん…
「ずるいですかね、私。」
「…少しね。」
「至さん食べ終わるまでここにいてもいいですか?」
「いいけど、その間これしといてくれない?」
「私、ゲーム下手ですけどいいですか?」
「慣れてよ。そしたら、これ要員で使ってあげるからさ。」
「はい。」
引き留めたい。
まだ直接言われたわけじゃない、きっと彼の心だって決まってない。
でも、少しでも彼の心に触れたらいいのにって思わずにはいられない。
こんな気持ち、どうしてだろう…
至さんに頼まれたゲームはコツを掴めば案外すぐにクリアできて、このくらい簡単ならよかったのにってそんなことを思っていた。
どうか、
この嫌な胸騒ぎが、
悪い予感があたりませんように…。