第6章 丁子桜
綴くんと談話室に向かえば、カレーの香りが漂って居て…
「いい匂い」
「っすね。まぁ、毎回はきついっすけど…」
確かにと思いながら、ドアを開ければみんなの視線がこちらにくる。
駆け寄ってきたのは咲。
「酒井さん、部屋に居たんですか?」
「うん。台本呼んでたらあっという間に過ぎちゃって。2〜30回は旅に出たよ」
「流石に多いだろ。」
「綴くんの本面白かったですもんね!」
にっこり笑った彼にうなづく。
「さ、芽李ちゃん、咲也くん、綴くんも席についてご飯にしよう!」
出してもらったカレーはあったかくて、優しくて、美味しくて。
泣きそうになったのは私だけの秘密だ。
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…そして翌朝。
今日から、台本を使っての稽古だ。
「仕事今からですか?」
「うん。佐久間君今日いつもより少し早いね?」
朝食を作り終えて、テーブルを拭いていると一番最初に起きてきたのは、弟の咲。
「稽古楽しみで早く起きちゃって。あの、」
「ん?」
「稽古、いつか、…てくださいね。」
ボソッと咲が言って、
「え?、」
聞き返すとまた新たに笑顔を作り直して言う。
「オレ、ご飯リクエストしても良いですか?いつでも良いんですけど」
「うん。」
「ナポリタン、食べたくて。」
「ナポリタン」
「大好きなんです、昔から。でも、実はこれだーって言うのにあったことなくて。」
…ナポリタン、か。
「もちろん。」
「ありがとうございます!」
たったそれだけのことなのに、にっこり笑って返してくれる咲。
ありがとうなんて、言われる資格ないのに…
「酒井さん?」
「…佐久間君。これとこれ温めて食べてってみんなに伝えてくれる?
お昼ご飯もし食べるのなかったら、冷凍庫に作り置きがあるからそれ温めて食べて。
夜は少し遅くなるかもしれないけど、夕飯の下拵えはしてあるから。」
「はい、わかりました!」
「…っ、はー。佐久間君たちとずっといたいーっお仕事休みたいー。」
「酒井さん、ふふ、じゃあオレたちもっと頑張らないとですね」
「なら、私も頑張らないと!」
「はいっその意気です!」
「うしっ、行ってきます!」
「はい、頑張ってくださいね!」