第5章 小彼岸
「当たり前だよ!芽李ちゃん!!」
…そっか、いいんだ。
私、何もできないのに。
シトロンくんが私の腕と咲の腕をとって先頭をいく。
「わっ、」
ートントン
ドアを叩いたのはいづみちゃん。
「綴くん、いる?約束の1週間になったから、脚本のことで相談したいんだけど。」
返事がない。
「返事がないですね」
「メイビー、スリーピング中ネ」
「死んでるかも。」
ピタッと動かせなくなった手足。
思い出したのは、あの日病院で聞いた電子音。
「え!?綴くん、開けるよ!?」
ゾロゾロと入っていくみんなの背中を見送って、逃げ出したのは私。
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ーーー
…怖かった。
開かない目を、
動かない唇を、
冷たい肌を、思い出したから。
私のせい?
私がこの劇団に関わったから…?
『死んでるかも』
何度も何度も何度も
繰り返して響く真澄君の言葉にあの人たちの声が重なる。
耳鳴りが大きくなって、吐き気がして、何も見たくない。
聞きたくない…
どうしても立ってられなくなって
「めい」
お日様のような匂いに包まれる。
大きくて、あったかい。
「だいじょ〜ぶ?」
いつもどこからともなく現れる彼。
私はこんな姿誰にも見られたくないのに…
ボロボロと溢れ出した涙はもう止まらない。
大丈夫って、
泣かないって思ったのにコレだもん。
「どこか痛い?具合悪い?」
そんな問いに首を振れば、そっかと言って何度か背中をぽんぽんっとさすってくれて、いい加減落ち着いた頃に温もりと優しい匂いが遠くなる。
「めい、悲しくて泣きたくなったらオレを呼んで。
ぜーったい、オレが1人にしないから。何も話したくないなら、話さなくていいから、コレをぎゅーってしてオレを思って。」
そう言って渡されたのは、目がついた黄色いさんかくの人形。
「…ありがと、」
力なく呟いた言葉に、ふっと力が抜けるような微笑みを浮かべて
「元気になるおまじない、だけどみんなにはナイショだよ」
私より大きな背の彼は、少し屈んで私の前髪を片手でずらすと、ふわっと優しくキスを落として…
えへへっといたずらに笑う。
「…もう大丈夫、またねめい」