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3月9日  【A3】

第5章 小彼岸


 「当たり前だよ!芽李ちゃん!!」

 …そっか、いいんだ。
 私、何もできないのに。

 シトロンくんが私の腕と咲の腕をとって先頭をいく。

 「わっ、」

ートントン

 ドアを叩いたのはいづみちゃん。

 「綴くん、いる?約束の1週間になったから、脚本のことで相談したいんだけど。」

 返事がない。

 「返事がないですね」
 「メイビー、スリーピング中ネ」
 「死んでるかも。」

 ピタッと動かせなくなった手足。
 思い出したのは、あの日病院で聞いた電子音。

 「え!?綴くん、開けるよ!?」

 ゾロゾロと入っていくみんなの背中を見送って、逃げ出したのは私。


ーーーー
ーーー


 …怖かった。

 開かない目を、
 動かない唇を、
 冷たい肌を、思い出したから。

 私のせい?
 私がこの劇団に関わったから…?

 『死んでるかも』

 何度も何度も何度も
 繰り返して響く真澄君の言葉にあの人たちの声が重なる。

 耳鳴りが大きくなって、吐き気がして、何も見たくない。 
 聞きたくない…

 どうしても立ってられなくなって

 「めい」

 お日様のような匂いに包まれる。
 大きくて、あったかい。

 「だいじょ〜ぶ?」

 いつもどこからともなく現れる彼。
 私はこんな姿誰にも見られたくないのに…

 ボロボロと溢れ出した涙はもう止まらない。

 大丈夫って、
 泣かないって思ったのにコレだもん。

 「どこか痛い?具合悪い?」

 そんな問いに首を振れば、そっかと言って何度か背中をぽんぽんっとさすってくれて、いい加減落ち着いた頃に温もりと優しい匂いが遠くなる。

 「めい、悲しくて泣きたくなったらオレを呼んで。
 ぜーったい、オレが1人にしないから。何も話したくないなら、話さなくていいから、コレをぎゅーってしてオレを思って。」

 そう言って渡されたのは、目がついた黄色いさんかくの人形。

 「…ありがと、」

 力なく呟いた言葉に、ふっと力が抜けるような微笑みを浮かべて

 「元気になるおまじない、だけどみんなにはナイショだよ」

 私より大きな背の彼は、少し屈んで私の前髪を片手でずらすと、ふわっと優しくキスを落として…

 えへへっといたずらに笑う。

 「…もう大丈夫、またねめい」
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