第1章 寒桜
「すぐ、降ります!!」
焦ったせいで前の席にぶつけた足は、きっと翌日に青あざができてるに違いない。
「ゆっくりで大丈夫ですよ、次出発するまでに時間もありますので」
とは言われたものの、申し訳なさと恥ずかしさで耳まで赤くなるのを感じながら、忘れ物がないかを確認し、お礼と支払いを済ませて急いでバスを降りた。
飛行機の切符も当日券で買える席で、一番早く本州に着くものにしようと思っていた。
だから、私自身はそんなに急ぐ必要はなかったかもしれないが…と、息を整えながら必要な手続きをする。
「東京か、…うん、まぁいいか。」
首都だし。
と、なんとなく決めた行き先。
出発までの間、購買で時間を潰す。
特に訳もなく誰に渡すでもない北海道土産まで購入し、プラプラしてればアナウンスが鳴ってこれでこの地を離れるんだと少しずつ本当の意味で実感が湧いてくる。
いつでも帰って来られるけど、次来る時は絶対あの子と…!
そう心に決め乗り込んだ飛行機。
思いの外狭くて、少し驚いた。
「えっと……座席は………あ、」
真ん中より少し後ろあたりに位置する二つ並んだ座席の窓側。
ラッキーと、内心はしゃいでしまう。
窓から翼が見えるのが、飛行機に乗り慣れてない私からすれば物珍しく感じる。
なんて思いながら、何枚か景色を撮っていると隣に気配を感じて、窓から視線を移す。
その時フワッといい香りがして、失礼かと思いつつ横を見れば男性がペコっとして来たため、私も思わず頭を下げた。
え、…待って。
すっごい仕事できそうなイケメン召喚されたんだけど?
すっごく爽やかなんだけど!!
すっごくスーツなんだけど!!
すっごくメガネなんだけど!!
いいの、これ合法なの?
許されるの?ドッキリなの?!
などと、自分のキャラを見失いそうなほどにはイケメンな隣人のせいで、内心穏やかではない。
落ち着け、自分!
と、今回の旅の目的であるあの子の写真を取り出し眺め、平常心を取り戻す。
もちろん、咄嗟に得意のポーカーフェイスで決めたので、そんな思いは、微塵も隣人にバレることはないだろう。
そんな時、
「すみません、」
と、小鳥が囀るような
………は、違うな。