第1章 寒桜
やり取りをする2人を見ながら思っていた私。
我ながらどうかしていた。
…それでも、今だからわかる。
そんな時間が何よりも愛おしくて、尊くて、幸せな時間だったと。
長い人生において、それが瞬きの合間くらいであったとしても、あの頃の記憶が私を支える。
確信をもって言えるのは、私の弟は今でもきっと可愛いに違いないって事。
だから、
どうか、元気で生きていて…。
両親からもらった名前のように、遅咲きでもちゃんと夢を満開に咲かせられるような、みんなの希望になれるような、そんな夢をちゃんと持てるような、あの頃と変わらないあの子であってほしいってこと。
確信なんて強がりじゃなく、懇願に近い想いだった。
…そうであって欲しかった。
どのくらいそうして寝ていたのか、正直覚えていない。
ただ、夢の中の私はとても幸せで、これが現実ならと夢の中で願った。
今までの現実が嘘でやっと悪夢から醒めた、と。
そんなことあるはずもなく…
ー…とんとん
「ん…?」
肩への刺激が、私を現実につれていく。
「お客さん、終点ですよ」
少しだけ困ったような表情に、慌てて起き上がる。
「え、あ、あ!はい。…すみません。」
優しそうな運転手さんが起こしてくれたおかげで、目が覚めた。
慌てて周りを見渡せば、確かに私以外の乗客は居ないみたいで、よほど熟睡していたのがわかる。