第5章 小彼岸
「ただいま戻りました」
至さんと2人で寮に入れば、泣きそうな顔で出迎えてくれた咲と呆れた顔の真澄くん、それから漂うカレーのにおい。
「アンタそれで行ったの?」
寮の中で履いてるスリッパで行ったら確かにその顔をしたくなるのはわかる。
でもコレは断じてドジっ子じゃなくて、不可抗力なんだよ真澄くん。
「oh〜イタル、うれし恥ずかし潮干狩りネ〜っ、すみにおかないよ〜♪」
後から来たシトロンくんも何を言ってるか分からないけど、翻訳する綴くんがいなければもはや通じない。
「無事で良かったです、スマホも部屋に置きっぱなしで探してもいなくて、俺心配でっ、」
「アンタが何も言わないでいなくなるから、コイツはずっとこの感じでウザかった。
俺は監督のカレー食べられるからべつにいいけど、スマホくらい持ってけ」
「マスミ、素直じゃないのは良くないネ
ずーっと玄関の前でソワソワしてたヨ。とりあえず無事で良かったヨ、中入るネ!」
そう言って私と至さんの腕を引くシトロンくん。
「待って!シトロンくん待って!!私スリッパ汚れてるから、脱がせて」
そう言ってスリッパを脱ぐとまた同じように手を引かれる。
私、どこにも行かないのに。
「お待たせ〜だよ、カントク」
「ただいま戻りました」
「お帰りなさい、2人とも。全く、芽李ちゃん心配したよ。せめて書き置きしてくれないと!報・連・相だよ。はい、繰り返して。」
「俺監督だけに報・連・相する。怒る監督も可愛い。」
「わかったわかった。真澄くんは少し大人しくしててね。
とりあえず、芽李ちゃん、次こう言うことがあったら本当に許さないからね!」
「まぁまぁ、監督さん。寮母さんが帰り道歩いてるところを俺が攫って引き戻しちゃった感じだから許してあげてよ、彼女も俺も。」
そう言って冷蔵庫にコーラをしまうマイペースな至さん。
心配かけて申し訳ないと、思うのと同時に少しだけ嬉しくなったそんな朝。
「いづみちゃん、みんなごめんなさい。次からは気をつけるね。」
その日のカレーは、いつもに増して美味しく感じた。