第5章 小彼岸
「ついたよ。卵以外にも何か買ってく?」
そう言って先に降りた至さんは、態とらしく私の席の方に周りどうぞ、お嬢サマと続ける。
「なんですかさっきから、ソレ」
「最近ハマってるソシャゲのキャラが執事なんだよね、それをリスペクトしてみた結果がコレ。どう?結構ハマってない?」
なんて言いながら片手を差し出されるから、私も良い気になって
「ありがとう、茅ヶ崎」
なんてやってみたのに
「ノリがいいのはいいけど、そこは茅ヶ崎じゃないでしょ」
と言われて仕舞えば返答に困る。
「では、もう一度。芽李お嬢様。」
あぁ、なるほど。
「ありがとう、至。」
クスッと笑って、
「正解」
と言う彼は執事っていうより王子様みたい。
ー…ぐいっ
唐突に引かれた腕のせいでバランスを崩す。
フワッと香る至さんの匂いが濃くなって抱きしめられているのを悟る。
ぎゅーっと、力強く
「…はい、おしまい。」
パッと離れた腕。
バクバクと騒ぐ心臓。
「なに、」
「ん?ストレス軽減。バグっていいらしいよ。どこかの偉い人が言ってた…ような気がする」
とぼけて言う彼になるほどと感心していると、頭を小突かれる。
「やっぱり…ね。」
彼が呟いた言葉は途中で途切れて、なんて言ったのか分からない。
「早くしないと、逆に怪しまれそーだし。」
そう言って動き出した背中に私も慌てて駆け寄る。
卵とコーラ2本とピザポテト。
それから棒突きのキャンディ。
お会計は全部彼がしてくれて、寮に行ったら渡すと言うと口止め料だから、貰っておいてとのこと。
「それからコレも。…なんか、好きそうでしょ。」
幼い子供が食べるようなキャンディを悪い顔して渡してくる。
「こんなんでも成人した大人なんですけど」
「子供の頃の"めいちゃん"に、………なーんて」
「…至さんって、ロマンチストなんですか?」
「大抵の男はみんなそんなもんでしょ。知らないけど。
まぁ、知ってってよ。そのうちにさ。」
シフトレバーを掴む手が妙に色っぽくて悔しい。
「じゃあ、至さんの攻略本作らないとですね」
動き出した車。
「なに、それって告白?」
「どう言うことですか?」
「まぁそれも追々ってことで。」