第31章 普賢象
side 至
夢を見た。
正直、いい夢ではなかったことは確か。
内容は全く覚えてない。
だけど、そんな気持ちが残って、目が覚めた。
布団からは出たくなくて、寝ぼけているのか頭もちゃんと働かないから、頭まで布団を被る。
「至さん、入りますよ」
聞こえてきたのは、何かを決意したような芽李の声で、これも夢かと都合よく捉える。
「至さん、起きてください。朝ごはんできてます」
「…んん」
俺はまだ夢の中にいるんだ。
「…あとごふん」
掠れてうまく出ない声。
「そうしてる間にも、万里くんにゲームの順位抜かされちゃいますよ」
呆れたような芽李の声だって、なんだか子守唄みたいだ。
けど、起きなきゃな。
臣に昨日の夜、時間になったら起こして欲しいと頼んだのは俺だ。
なんとか頭を働かせようとした時、耳に拾った声で俺はやっぱり悪夢なんじゃないかと悟る。
「んー…」
「…ほんとに、どうしようもない人ですね。千景さんも…」
ピクッと動きを止めたのは、やけに呼び慣れたように聞こえた、芽李が先輩を呼ぶ声。
まさかね。
「卯木さんも、もう起きて談話室行っちゃいましたよ。
至さん、臣君に頼んだんでしょう?」
たった一度、拾った声。
それだけで、はっきりと目が覚めた。
ハシゴが軋む音がする。
きっと、数段芽李が登ったんだろう。
どんな顔して俺を見てるのか気になって、俺は布団から出る。
「…芽李」
「どうしたんです?何か、嫌な夢でも見ました?」
俺を見て、芽李が笑う。
なんだ俺、迷子みたいだ。
「…夢、ならいいんだけど」
「寝ぼけてます?」
「…」
「至さん?」
ガシガシっと、あたまをかく。
切り替えろ、俺。
これからも、芽李がここにいてくれるために。
俺は想いを隠そうって決めたんだから。
「お腹すいたっぽい」
「臣君と美味しいの作りましたよ」
「うん…ありがと」
「はい。じゃあ、先行ってあっためときますから、ちゃんと寝癖まで直してきてくださいね」
やけに耳に馴染んだ一言。
"千景さん"芽李の一言がまるで無くしたピースを見つけたみたいに、これまでのことがパズルみたいにハマってく。