第5章 小彼岸
ー…ドンドン ドンドン
けたたましいドアを叩く音で目が覚めるも、少しだけぼーっとしていると、パフっと何かに包まれる。
フワッと至さんの匂いがして、温かい、
そして、それが布団だと言うことに、気づくまで数秒…
「…どうしたの?」
少しだけ掠れて優しい声がして、ここが自分の部屋じゃないことを悟る。
…なんだ、この状況は。
「大変なんです!!
酒井さんが、どこにも居なくて!!どうしましょう?!
見かけませんでしたか?!」
慌ててる咲の声も聞こえる。
「さぁ?…あぁでも、わかった。俺もさがすの手伝うよ。けど、朝食に出す卵でも買いに行ったんじゃない?」
「そう、…ですかね。」
「…なに、何か心当たりあるの?」
「いえ、!…ただ、なんでもありません!
じゃあ俺もう少し探してみます!!」
「はーい。」
パタンとしまったドアと、捲られる布団。
「よく寝れましたか?お嬢サマ?」
意地悪く、にんまりと笑う彼。
「…すみせん」
「いや、俺が引き止めちゃったし。ところで、どうする?みんな探してるみたいだけど?」
どうしよう…
「ふむ。………じゃあさ、俺も出勤前だから少ししか無理なんだけど、朝のドライブでもしない?」
「え?」
「卵買いに行ったことにすればいーじゃん。ほら、そうと決まれば早よ。寮母さんはあの窓から出てバレないように俺の車に乗ったらミッションクリアね。バレたら即ゲームオーバー。」
そう言って渡された車の鍵。
またぽんぽんと頭を撫でられる。
言われるがままに窓からこっそり出て誰にもバレないように…………っ、
「おはよう、めい〜ぇへへ。何してるのー?」
「車までいきたくて、かくれんぼというか、誰にも見つかりたくなかったんだけど…」
「みんなーって、ここの人たち?」
コクコクとうなづく。
「じゃあ、きっとオレはせーふだよー。めい、オレにちょおっと捕まって??」
「え?」
そう言って軽々とお姫様抱っこをきめこんだ彼は、あっという間に誰にも見つからずに私を彼の車の元へと連れて行ってくれたのだけれど…
私を運び終えるとまた気まぐれにどこかに行ってしまった。
「へぇ、ミッション成功オツ」
その声にビクッと肩を揺らす。