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3月9日  【A3】

第30章 駿河台匂


 「こんな私がここにいる資格なんてないのかもしれないけど」

 視線を落とすと、玄関から鍵が開く音がして口を紡ぐ。

 「…まぁ、とにかく。このことはご内密に」

 "ただいま"と、聞こえて来た声が話題に出てた至さんで、私は少し動揺する。

 「おかえり、至」
 「おかえりなさい、至さん」
 「ただいま戻りました。…っ」

 まんまるに見開かれた至さんの目。

 「どうしたの、至?鳩が豆鉄砲を食ったみたいな顔してるけど」
 「あ、…いや。うん。…ふっ」
 「至さん?」
 「ちょっと、噛み締めてただけ。芽李がここにいるの、コレからは当たり前になるんだなって、それだけ」

 なんていう甘い言葉に、熱を上げないよう片隅で違うことを考える。
 たとえば、夕食何にしようとか。

 「至、可愛いね」
 「やめてくださいよ。って、資料取りにきたんだった。あとすぐ戻るんで!」
 「気をつけてね」
 「はい。じゃあ、芽李も東さんも行って来ます」
 「「行ってらっしゃい」」
 「行っちゃったね」
 「そうですね」

 玄関の閉まる音を聞いて、含みのある笑顔を向けてくるのがほんとうになんていうか、東さんらしいと言うか。

 「ボクは至のことも応援してるから」
 「どう言う意味ですか」
 「どう言う意味だろうね。ふふふ」
 
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