第30章 駿河台匂
「こんな私がここにいる資格なんてないのかもしれないけど」
視線を落とすと、玄関から鍵が開く音がして口を紡ぐ。
「…まぁ、とにかく。このことはご内密に」
"ただいま"と、聞こえて来た声が話題に出てた至さんで、私は少し動揺する。
「おかえり、至」
「おかえりなさい、至さん」
「ただいま戻りました。…っ」
まんまるに見開かれた至さんの目。
「どうしたの、至?鳩が豆鉄砲を食ったみたいな顔してるけど」
「あ、…いや。うん。…ふっ」
「至さん?」
「ちょっと、噛み締めてただけ。芽李がここにいるの、コレからは当たり前になるんだなって、それだけ」
なんていう甘い言葉に、熱を上げないよう片隅で違うことを考える。
たとえば、夕食何にしようとか。
「至、可愛いね」
「やめてくださいよ。って、資料取りにきたんだった。あとすぐ戻るんで!」
「気をつけてね」
「はい。じゃあ、芽李も東さんも行って来ます」
「「行ってらっしゃい」」
「行っちゃったね」
「そうですね」
玄関の閉まる音を聞いて、含みのある笑顔を向けてくるのがほんとうになんていうか、東さんらしいと言うか。
「ボクは至のことも応援してるから」
「どう言う意味ですか」
「どう言う意味だろうね。ふふふ」