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3月9日  【A3】

第30章 駿河台匂


 「じゃあ、そろそろお暇しようかな」
 「え、もう??」
 「うん、随分長居させてもらっちゃったし」

 夕食を終えて、皿洗いをたった今終えた。
 いづみちゃんは隣で洗い終えたお皿を片付けてくれている。

 「それにしてもやっぱりみんな育ち盛りだね」
 「そうだね。けど、久しぶりの芽李ちゃんの手作りってこともあるんじゃないかなぁ」

 今日の夜練はフリーで、臣君は太一くんに誘われて殺陣の稽古に行った。

 「それはない、それだけはない。みんな臣君のご飯で舌がこえているだろうし」

 昨日は酔っていてあまり役に立たなかったし、今日は少しでも役に立てよかったと思う。
 少しだけ嬉しかったのは、私がいた頃のキッチンと小物の位置がかわっていなかったこと。

 「臣くんのご飯はもちろん美味しいけど、芽李ちゃんのご飯も美味しいよ。懐かしかった」
 「ありがと。昨日食べたいづみちゃんのカレーも世界一美味しかった」
 「スパイスから拘ってるからね!ふふっ、嬉しいなぁ」
 「いづみちゃん、改めてまたよろしく。今度はもう逃げないから」
 「芽李ちゃんが逃げたって思ってないよ。たまたま目指す道が違って、また道が交わったってだけ。でも、こんな日を待ってたのかもしれないとは思う。…なんてね」
 「ふふっ」
 「明日から通うんだよね?空き部屋片付けるから、また入寮してもいいんだよ?」
 「うん、ありがとう。でも」
 「あ、そっか。旦那さん…って、今日は大丈夫なの?」
 「…うん。出張?だから」
 「そっか。じゃあ、泊まっていったら?」
 「ううん。いつ帰ってくるかわからないから、帰る」

 そっか、と眉を下げたいづみちゃん。

 「乗せてこうか?」

 コーラを取りにたまたま部屋から出てきた至さんが、背中を向けたまま言う。

 「あ、いいじゃん。お言葉に甘えたら??夜も遅いし、それなら安心」

 いい考え!とぽんっと手を叩いたいづみちゃんに、断る言い訳を考える私。

 「でも、」
 「用意してくるから、芽李も用意しておきな」
 「至さんゲームは??」
 「いまメンテナンスに入ったところだから」

 今日はいつものスタジャンに、髪を結んでる。
 それだけで少し嬉しいなんて、私本当にどうかしてる。

 「明日朝早いわけじゃないし、送ってくよ」


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