第30章 駿河台匂
「じゃあ、そろそろお暇しようかな」
「え、もう??」
「うん、随分長居させてもらっちゃったし」
夕食を終えて、皿洗いをたった今終えた。
いづみちゃんは隣で洗い終えたお皿を片付けてくれている。
「それにしてもやっぱりみんな育ち盛りだね」
「そうだね。けど、久しぶりの芽李ちゃんの手作りってこともあるんじゃないかなぁ」
今日の夜練はフリーで、臣君は太一くんに誘われて殺陣の稽古に行った。
「それはない、それだけはない。みんな臣君のご飯で舌がこえているだろうし」
昨日は酔っていてあまり役に立たなかったし、今日は少しでも役に立てよかったと思う。
少しだけ嬉しかったのは、私がいた頃のキッチンと小物の位置がかわっていなかったこと。
「臣くんのご飯はもちろん美味しいけど、芽李ちゃんのご飯も美味しいよ。懐かしかった」
「ありがと。昨日食べたいづみちゃんのカレーも世界一美味しかった」
「スパイスから拘ってるからね!ふふっ、嬉しいなぁ」
「いづみちゃん、改めてまたよろしく。今度はもう逃げないから」
「芽李ちゃんが逃げたって思ってないよ。たまたま目指す道が違って、また道が交わったってだけ。でも、こんな日を待ってたのかもしれないとは思う。…なんてね」
「ふふっ」
「明日から通うんだよね?空き部屋片付けるから、また入寮してもいいんだよ?」
「うん、ありがとう。でも」
「あ、そっか。旦那さん…って、今日は大丈夫なの?」
「…うん。出張?だから」
「そっか。じゃあ、泊まっていったら?」
「ううん。いつ帰ってくるかわからないから、帰る」
そっか、と眉を下げたいづみちゃん。
「乗せてこうか?」
コーラを取りにたまたま部屋から出てきた至さんが、背中を向けたまま言う。
「あ、いいじゃん。お言葉に甘えたら??夜も遅いし、それなら安心」
いい考え!とぽんっと手を叩いたいづみちゃんに、断る言い訳を考える私。
「でも、」
「用意してくるから、芽李も用意しておきな」
「至さんゲームは??」
「いまメンテナンスに入ったところだから」
今日はいつものスタジャンに、髪を結んでる。
それだけで少し嬉しいなんて、私本当にどうかしてる。
「明日朝早いわけじゃないし、送ってくよ」