第29章 御衣黄
「監督ぅ」
「芽李ちゃん落ち着いて」
先ほど参加してきたいづみちゃんが隣にいることをいいことに、がっつり慰めてもらいながら、買ってきたケーキと紬さんのコーヒーを嗜む。
続けて青年アリスと、歴代公演を辿っていく。
「目、疲れない?」
「ぜんぜん、目が足りないのは確かだけど」
途中休憩を挟みながら、みんなの頑張りを見るだけで本当に涙が足りない。
ティッシュじゃ収まらない。
「全部良すぎるんだが、ここの演技好きぃ」
万里くんなんてお芝居が恋人だとかいいながら、随分前に携帯をいじりはじめたし、見ているうちに人が増えたり減ったりを繰り返して、幸くんには、まだいたの?なんて割と普通に引かれたし、脚本について語りたいと綴くんを待っているのに、今日は全然来ないしでそんなつもりはなかったのに普通に夕飯の時間が迫っている。
「芽李ちゃん、今日は夕飯どうする?」
「いや、もう作らせて。ヴォルフやみんなを労わせて」
「でも、」
「もちろんカレーも作るからおねがい。万里くん買い物行こう」
「ったく、わかったよ。俺は労ってくんないのかよ」
「だってピカレスク見てないもん。解説受けてないから、また今度ね」
「っち」
「カリフォルニアロールもつくろっか」
「悪くねぇ」
と、そんなこんなでしれっとカンパニーに戻らせていただいた私は、まだわからなかった。
これから起こる波乱の幕開けを。
千景さんの葛藤と、曖昧な自分の感情を。
「凄いことになりそうだけどな」
「でも、みんな育ち盛りだし。納豆も買う?」
「いらねぇ。わざと?」
「好き嫌いは大きくならないよ?」
「もう十分おおきいだろ、芽李さんこそなんでそんなに小さいんだよ」
「カリフォルニアロールはやめて、納豆巻きにしようかな」
「うそ、うそだっつーの!だから、納豆おけ!早く帰るぞ」
私からカートを掻っ攫い、ずんずんと進んでいく万里くんの後を追う。
「大量だね」
「だな」
両手に荷物いっぱい、なんだか既視感。
なんだかんだ万里くんがいっぱい荷物を待ってくれて、少し申し訳ない気持ちでいると、クラクションが聞こえる。
「なにしてんの、2人で」
窓が開き、至さんの声。
「のってく?」
その言葉に2人でうなづいた。