第29章 御衣黄
「いい香り」
「でしょ、とっておきなんだ。お花も飾ってみたんだ」
「フリージア」
「正解。さすが、お花屋さん。いい香りだよね」
座ってと言われて、促されるままに座る。
「…あ、そうだ。綴間に頼まれてたんだった」
「あ、例の。じゃあ俺これ運んでおく」
「え、あ。手伝う」
「いいよ、座っとけ。今度からはバンバンこき使われるんだから。無賃で」
「なんの話?」
「左京さんと芽李さんの話し。劇団手伝ってくれるんだと」
「えぇ!ほんとう??嬉しいです…よかった」
「よかった?」
「フリージアの花言葉、しってますか?」
「お恥ずかしながら…」
「俺の芽李さんへの気持ちです。監督やみんなにもそうだけど、きっかけをくれたのはあなたなので」
「…ったく、ずりぃよな。紬さんはこれだから」
「いつか、調べてみてください」
そう言って、差し出されたのは何冊かの冊子。
"芽李さん用"
裏表紙に殴り書きされたそれは、綴くんの字で。
「綴くんもさっきまでいたんだけどね、出かける直前に万里くんから連絡もらったから、次いつくるかわからないから渡しておいて欲しいって…心配いらなかったみたいだけど」
「これ…」
「俺たちの今までの脚本。それから、」
「記録用だから、写り悪ぃけど」
ケーキを運んでくれた万里くんが、リモコンを操作しテレビをつける。
「これって…」
「復習だよ、復習。手始めに、天使を憐れむ歌からな」
「なんだか恥ずかしいな」
「ちゃんとみてなかっただろ?っていうか、それどころじゃなかっただろうから」
2人の気遣いになんだか視界が歪む。目が潤んである自覚がある。
「なんでぇ…」
「始まる前から泣いてるし」
「私このお話すきなんだけど」
「ありがとうございます」
「しかも主演の解説つきだぜ、贅沢だろ」
「まって、それぴかれすくでもしてほしい」
「今度な。それじゃあつけるぞ」
もう、つかみから最高すぎる。
紬さんの細やかな演技は、旗揚げでも秀逸で。
涙なしでは見られない。
あの時とはまた違った気持ちでみられるのは、ここにいるからだろうか。
「うわぁあんっ、みかえるぅ」
「あはは、ここまでとは」
私の泣き顔に、ミカエルの方が憐れんでいる。
「うあんっ」