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3月9日  【A3】

第29章 御衣黄


 「いい香り」
 「でしょ、とっておきなんだ。お花も飾ってみたんだ」
 「フリージア」
 「正解。さすが、お花屋さん。いい香りだよね」

 座ってと言われて、促されるままに座る。

 「…あ、そうだ。綴間に頼まれてたんだった」
 「あ、例の。じゃあ俺これ運んでおく」
 「え、あ。手伝う」
 「いいよ、座っとけ。今度からはバンバンこき使われるんだから。無賃で」
 「なんの話?」
 「左京さんと芽李さんの話し。劇団手伝ってくれるんだと」
 「えぇ!ほんとう??嬉しいです…よかった」
 「よかった?」
 「フリージアの花言葉、しってますか?」
 「お恥ずかしながら…」
 「俺の芽李さんへの気持ちです。監督やみんなにもそうだけど、きっかけをくれたのはあなたなので」
 「…ったく、ずりぃよな。紬さんはこれだから」
 「いつか、調べてみてください」

 そう言って、差し出されたのは何冊かの冊子。

 "芽李さん用"

 裏表紙に殴り書きされたそれは、綴くんの字で。

 「綴くんもさっきまでいたんだけどね、出かける直前に万里くんから連絡もらったから、次いつくるかわからないから渡しておいて欲しいって…心配いらなかったみたいだけど」
 「これ…」
 「俺たちの今までの脚本。それから、」
 「記録用だから、写り悪ぃけど」

 ケーキを運んでくれた万里くんが、リモコンを操作しテレビをつける。

 「これって…」
 「復習だよ、復習。手始めに、天使を憐れむ歌からな」
 「なんだか恥ずかしいな」
 「ちゃんとみてなかっただろ?っていうか、それどころじゃなかっただろうから」

 2人の気遣いになんだか視界が歪む。目が潤んである自覚がある。

 「なんでぇ…」
 「始まる前から泣いてるし」
 「私このお話すきなんだけど」
 「ありがとうございます」
 「しかも主演の解説つきだぜ、贅沢だろ」
 「まって、それぴかれすくでもしてほしい」
 「今度な。それじゃあつけるぞ」

 もう、つかみから最高すぎる。
 紬さんの細やかな演技は、旗揚げでも秀逸で。

 涙なしでは見られない。
 あの時とはまた違った気持ちでみられるのは、ここにいるからだろうか。

 「うわぁあんっ、みかえるぅ」
 「あはは、ここまでとは」

 私の泣き顔に、ミカエルの方が憐れんでいる。

 「うあんっ」
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