第29章 御衣黄
「旦那さん怒らねぇ?」
「それは大丈夫。帰ってこないから」
「愛想尽かされたとか?」
「確かに別れたけどそういうわけじゃ」
「別れた?!」
万里くんの声にハッとする。
「別れたのかよ?!」
咲にだけと、思ってたのに。
よりによって自分からバラしてしまった。
「今までの話は?!」
「…」
「黙るなよ!!どう言うことだよ!」
「ば、万里くん近い近い」
「説明しろよ」
「…いや、うん。本当都合良すぎるよね。わかれたからって、出戻るみたいなこと。
確かに、別れたけど。でも、でもみんなの夢のお手伝いしたい気持ちに嘘はないよ。
これだけは、ずっとそう」
夢の邪魔になりたくないから、結婚したと言うところもあるし。
「だけど、自分からバラしておいてなんだけど。言わないで、特に至さんには」
「なんで」
「バツついてるし、私。…それにさ、今後手伝って行くなら尚更、こう言う感情って邪魔になっていくと思うんだ。
もちろん、極力至さんには関わらないように、関係こじれないようにしていくつもり」
「決めたのか?」
「うん、これから手伝うなら…今そう決めた。そういうことだから、万里くんこのことは他言無用で。咲には伝えてる」
「じゃあ、なんで寮に帰ってこないんだよ。尚更、」
「至さんと極力関わらないため。…っていうのは、後付け。今住んでるところ、旦那さんが選んでくれたの。お部屋の契約期間終わるまでは、住みたいと思ってる」
「寂しくないのかよ」
「寂しくないって言ったら嘘になるね。…けど、私が旦那さんを嫌いになったわけじゃないから、何かあった時のために居場所とっておいてあげたいの。
泣きたい時とか、帰ってくるかもしれないし」
「泣き虫なのか?」
「ううん、ちっとも。でも、見て?」
ポケットから鍵を取り出す。
「可愛いな、それ」
「でしょ。最後のプレゼントなの、このキーホルダー。うさぎって、寂しいと死んじゃうって言うでしょ。…だから、なんていうか」
「大切だったんだな」
"好きだった“と言う言葉をつかわず、そう言ってくれたから素直にうなづけた。
「そう、大切だったの。みんなと同じくらい、大切な人だから。だからね、万里くんがさっき私の旦那さんを入れたら?って言ってくれて嬉しかった。そうなったらいいって、思ってた」