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3月9日  【A3】

第29章 御衣黄


 「旦那さん怒らねぇ?」
 「それは大丈夫。帰ってこないから」
 「愛想尽かされたとか?」
 「確かに別れたけどそういうわけじゃ」
 「別れた?!」

 万里くんの声にハッとする。

 「別れたのかよ?!」

 咲にだけと、思ってたのに。
 よりによって自分からバラしてしまった。

 「今までの話は?!」
 「…」
 「黙るなよ!!どう言うことだよ!」
 「ば、万里くん近い近い」
 「説明しろよ」
 「…いや、うん。本当都合良すぎるよね。わかれたからって、出戻るみたいなこと。
 確かに、別れたけど。でも、でもみんなの夢のお手伝いしたい気持ちに嘘はないよ。
 これだけは、ずっとそう」

 夢の邪魔になりたくないから、結婚したと言うところもあるし。

 「だけど、自分からバラしておいてなんだけど。言わないで、特に至さんには」
 「なんで」
 「バツついてるし、私。…それにさ、今後手伝って行くなら尚更、こう言う感情って邪魔になっていくと思うんだ。
 もちろん、極力至さんには関わらないように、関係こじれないようにしていくつもり」
 「決めたのか?」
 「うん、これから手伝うなら…今そう決めた。そういうことだから、万里くんこのことは他言無用で。咲には伝えてる」
 「じゃあ、なんで寮に帰ってこないんだよ。尚更、」
 「至さんと極力関わらないため。…っていうのは、後付け。今住んでるところ、旦那さんが選んでくれたの。お部屋の契約期間終わるまでは、住みたいと思ってる」
 「寂しくないのかよ」
 「寂しくないって言ったら嘘になるね。…けど、私が旦那さんを嫌いになったわけじゃないから、何かあった時のために居場所とっておいてあげたいの。
 泣きたい時とか、帰ってくるかもしれないし」
 「泣き虫なのか?」
 「ううん、ちっとも。でも、見て?」

 ポケットから鍵を取り出す。

 「可愛いな、それ」
 「でしょ。最後のプレゼントなの、このキーホルダー。うさぎって、寂しいと死んじゃうって言うでしょ。…だから、なんていうか」
 「大切だったんだな」

 "好きだった“と言う言葉をつかわず、そう言ってくれたから素直にうなづけた。

 「そう、大切だったの。みんなと同じくらい、大切な人だから。だからね、万里くんがさっき私の旦那さんを入れたら?って言ってくれて嬉しかった。そうなったらいいって、思ってた」
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