第29章 御衣黄

　「左京さんお芝居だけじゃなくてモノマネまで出来ちゃうんですね」
　「まぁな」

　そう言ってメガネの端をあげる。

　「照れてんじゃねぇ。全然似てねぇし」
　「あんだと？摂津、だいたいお前は…うんたらかんたら」
　「ふっ」

　2人のテンポのいいやりとりに思わず吹き出す。
　ばっと2人同時に私を見るから、また笑ってしまう。

　「仲良くて良かった」
　「…ッち」
　「別に仲良くねぇよ。…ただ、秋組の仲間だからな」
　「ふん」
　「え、尊っ。何今のやりとり尊いっ」
　「オタク発動すんな」
　「そんなことよりだ。佐久間、お前手伝いたいって言ったことに、二言はねぇな？」
　「はい。みんなの夢をちゃんと支えたい」
　「旦那には言ってあるのか」
　「いえ…でも、大丈夫です」
　「お前は子供じゃねぇから、これ以上は何も言わないが、手伝うって言ったからにはもう逃がさねぇ。
　次逃げたら、縁をきる。帰る場所も残さねぇ、ラストチャンスだ」
　「…っ」
　「フルール賞はそんなに甘い夢じゃない。俺たちの夢は」
　「わかりました」　
　「よし、…じゃあ、改めてよろしく頼む。あぁ、そうだ。寮には住むのか？」
　「いえ、」
　「そうか、旦那もいるしな」
　「まぁ」
　「旦那さん、新たに入団させれば？」

　突如爆弾を投下した万里くんを見る。
　それはもう、願ったりかなったりだ。

　「いい案ではあるがな。先程、茅ヶ崎から連絡があって、春組の候補の1人が明日オーディションを兼ねた面接をすることになった」
　「なる。じゃあその人次第ってことか」
　「そういうことになるな。まぁ、お前の旦那の都合もあるだろうしな。ということで、明日お前の初仕事これで仕切り直しだ」
　「え」
　「どうせ暇だろ、オーディション経験してるしな。監督さんのこと手伝ってやってくれ。アイツには話を通しておく。迫田」
　「ヘイっ！兄貴っ」

　どこからともなく現れた迫田さんも、前にあった時より表情が柔らかい気がする。

　「左京さん」
　「あぁ、そういえば。契約書作っておくからあとでサインしておいてくれ。今日も寮に来るのか？」
　「えっと、」
　「俺が連れてく」
　「そうか、じゃあその時に。摂津、頼んだぞ」
　「あ、…あぁ、行っちゃった」
　「ふっ、トントン拍子だな」
　「いいのかなぁ、これで」
　「良いんじゃん？けど、」